お通夜

藤村 「誠にご愁傷様でございます」


吉川 「あ、え? はい」


藤村 「生前、故人には大変良くしていただきまして。なにぶん急なことでしたのでとるものもとりあえず駆けつけたのですが」


吉川 「あの。その格好は?」


藤村 「はい。急で喪服が用意できなかったので、とりあえず場違いにならないように黒い服を」


吉川 「確かに色は黒ですが。あの、お通夜ですよ?」


藤村 「気持ち的には喪に服してます」


吉川 「でもなんですか、その服?」


藤村 「これは見習いサキュバスです」


吉川 「見習いサキュバス!? どういうことですか?」


藤村 「サキュバスの見習いの格好です。ハロウィンで使ったやつ。家に黒い服がこれしかなかったので」


吉川 「え? 黒いことは黒いけど、肌が出すぎと言うか、布の場所がおかしいですよ」


藤村 「見習いなんで」


吉川 「なによ、見習いって。サキュバスの格好とはまた違うわけですか?」


藤村 「そうですね。サキュバスは全体的にもっと露出してます」


吉川 「あ、抑えてくれてるんだ。一応」


藤村 「はい。TPOを考えて」


吉川 「本当に考えました? 抑えてそれ? 相当出てますよ。今日ここに来た人の中でずば抜けて肌色が多いです」


藤村 「どうしても、これしかなくて」


吉川 「いや、それだったらまだジーンズとかできたほうが良かったと思いますけど?」


藤村 「あとはもう原色のラメが付いたのしかないんです」


吉川 「壮絶なワードローブだな。それは冠婚葬祭以外の時も困るでしょうに」


藤村 「できる限り故人に対する哀悼の意を表しました」


吉川 「故人が好きだったの? 見習いサキュバスを?」


藤村 「いいえ、故人はロリ婆エルフ派でした」


吉川 「全然知りたくなかった情報を。しかもお通夜の時に」


藤村 「でも私が見習いサキュバスに目覚めたのは間違いなく故人のおかげです。それまでの私はサキュバスは熟女感があるほど良いという固定観念に囚われてました」


吉川 「はぁ、全然知らん。その話はもう一言も続きを聞きたくない」


藤村 「そうですか。そうですよね。普通の人はやっぱり見習いよりも上からくるサキュバスがいいですもんね」


吉川 「サキュバス好きという前提がなんなの? 普通の人はサキュバス好きってもう決めつけられてるじゃん」


藤村 「嫌いなんですか?」


吉川 「嫌いとか好きとかじゃなくて、サキュバスに対して自分のスタンスを考えたことなんてないよ」


藤村 「見習いも?」


吉川 「要素を足されたところで『それなら好きですね』ってならないよ。だいたいなんなんだよ、見習いサキュバスって」


藤村 「普通サキュバスはサキュバス上位で来るじゃないですか?」


吉川 「知らないよ!」


藤村 「サキュバス上位スタートで、ことが始まったところでサキュバスが堕ちて逆転するという醍醐味があるわけですよね?」


吉川 「なんで常識みたいに言うの? それを共感してくれる人っているわけ?」


藤村 「しかし見習いサキュバスは最初はこちらが上位なわけです。とはいえサキュバスはサキュバスですから。やっぱり本性を出されると小生もたまらん侍になるわけです」


吉川 「なるわけですって何になるんだよ。ワードが特殊すぎて具体的に何もわからないし、わからないまでもろくでもないことは伝わるよ」


藤村 「そんな故人が亡くなってしまうなんて。うぅ……」


吉川 「まぁ格好よりも気持ちですから。それにお断りする権利は私にはありませんし」


藤村 「見習いサキュバスですみません」


吉川 「本当だよ。ではどうぞ、中へ」


藤村 「いえ、もうすぐ知人たちも来るそうなのでここで待たせてもらいます」


吉川 「そうなんですか? その格好、知人の方たちは見て驚かないんですか?」


藤村 「多少驚かせてしまうかもしれませんね」


吉川 「そうでしょうよ」


藤村 「知人たちは痴女アマゾネス軍団で来るらしいですから」


吉川 「帰れ!」



暗転

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