祭り

藤村 「ソイヤ! ソイヤ! どけどけー!」


吉川 「ちょっと。乱暴はやめてください」


藤村 「なんでぇ、ヒョロっちいの。祭りだぞ? 祭りときたら喧嘩に決まってるだろうが」


吉川 「決まってませんよ。いつの時代の人ですか。令和ですよ?」


藤村 「てやんでぇ! 令和も元禄もあるもんか。祭りときたら血が騒ぐ。男児この世に生まれたからにゃ、祭りで死ぬのは本望でい!」


吉川 「うるさいし他の人の迷惑ですよ」


藤村 「祭りは神様に捧げるもんでぇ。うるさいくらいで丁度いい。神様ならぬ他の奴らに迷惑を言う義理なんざありゃしねぇぜ」


吉川 「いや、周りを見てくださいよ。あなたみたいなひと一人もいませんよ?」


藤村 「カーッ! 最近の若いもんは嘆かわしいね。本当の祭りってものを知らねぇ」


吉川 「江戸っ子か何か知りませんがね。そういう慣習を押し付けないで欲しい」


藤村 「こちとら上京してきて12年でぇい!」


吉川 「全然江戸っ子じゃないじゃないですか。たった12年しかいないで」


藤村 「その12年中、7年は川口市でぇい!」


吉川 「埼玉じゃないですか。東京に5年しかいない」


藤村 「でもその5年は生粋の東京、町田でぇい!」


吉川 「ギリギリ東京かどうか判定が怪しいところじゃないですか。そんな東京にかすってる感じでよく江戸っ子感出せますね?」


藤村 「生まれも育ちも関係ねぇ。魂が祭りを呼ぶんでぇい!」


吉川 「だからって、そんな半被着て来る人いませんよ。ヤマザキ春のパンまつりに」


藤村 「もう24.5点溜まってるんでぇい!」


吉川 「あ、結構溜まってますね。っていうか貼り方雑だなぁ」


藤村 「雑なくらいが丁度いいんでい!」


吉川 「そんなちょうど良さないでしょ。ほら、ボクの見てください。ちゃんと0.5がでるところは0.5の段にして。一段を10点か5点で揃えてます」


藤村 「こちとら気が短いんでい。そんなちまちま貼ってたら日が暮れて、そしてまた日が昇り、さらに日が暮れて、やがて人類は滅亡しちまうんでぇい」


吉川 「気の短さと人類の絶滅を並列に並べないでくださいよ。あなた個人の事情でしょうが」


藤村 「そうやって計算ばっかりしてやがるから近頃の若いもんは元気がないんでい。算数をするよりまず飛び込んでやってみる、その気持ちが大事なんでい!」


吉川 「とにかくパン売り場で騒がないほうがいいですよ。店員さんも迷惑がってます」


藤村 「てやんでぇ! 店員が怖くて祭りやってられるかってんだ!」


吉川 「迷惑な人だなぁ。なにがそこまで無茶させるんだ」


藤村 「……ヒグッ。実は会社が倒産してしまって」


吉川 「そんな悲しい背景があったんだ。可哀想とは思うけど、だからといって他人に迷惑をかけるのはよくないですよ」


藤村 「何もかも失った俺だけど、ヤマザキ春のパンまつりだけは、俺のための祭りだと思って」


吉川 「多分ヤマザキパンはそんな風に想定してないと思うけど、なんでそんな」


藤村 「発酵薄幸の祭りだから……」



暗転

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