フラッシュモブ

藤村 「ドキドキするな」


吉川 「実はお前に言っておかなければならないことがあるんだ」


藤村 「なんだよ、改まって?」


吉川 「俺、もう長くないんだ……」


藤村 「そんな、嘘だろ?」


吉川 「本当だ。医者も『マジヤバイ』って言ってた」


藤村 「医者が? 本当にそう言ってたの?」


吉川 「カルテにも『マジヤバイ』って書いてた」


藤村 「極端に語彙が少ないけど、大丈夫その医者?」


吉川 「もちろんセカンドオピニオンも受けたさ。その医者はこう言ってた『ぶっちゃけ厳しい』って」


藤村 「なんでそういう医者ばっかり選んでるの?」


吉川 「もういつバラバラになってもおかしくない身体だってさ」


藤村 「バラバラになるの!? どういう理屈で? それ、病気なの? 怪我なの?」


吉川 「元からそういう性質の人らしい」


藤村 「種族の問題? え? ヒトじゃないの?」


吉川 「突然変異で現代の医学ではどうしようもないらしい」


藤村 「そうなのか。それは医者も『マジヤバイ』と言うしかないか」


吉川 「黙って格好良く逝きたかったんだけど、お前にだけは言っておこうかと思って」


藤村 「え、でもこのタイミングで?」


吉川 「もう俺には他のタイミングが残されてないから」


藤村 「そうかもしれないけどさ、これからフラッシュモブ始まるんだよ?」


吉川 「そうなんだよ。やっぱりフラッシュモブが終わって死体が転がってたらまずいから俺は遠慮するわ」


藤村 「そんなすぐ? ちなみにあとどれくらい生きていられるんだ?」


吉川 「5分」


藤村 「分!? 分刻みで寿命わかるの?」


吉川 「もって5分。下手すると4分50秒かも」


藤村 「秒刻みで。そんなギリギリの状態でいるの?」


吉川 「こうしてる間にも、胸が締め付けられるんだよ」


藤村 「そんな恋心みたいな状態になってるんだ」


吉川 「だからちょっとフラッシュモブは無理かなーって」


藤村 「いや、でもあんなに練習したじゃん」


吉川 「そうだけど、周りの人たちにはそれ以降の人生があるでしょ。もう台無しだからね。バラバラになって死ぬんだから」


藤村 「なんとか頑張ってバラバラにならないようにできない?」


吉川 「頑張り加減でどうにかできると思う? 医者が『マジヤバイ』って言うほどなのに」


藤村 「でもお前がいなきゃ成立しないぞ?」


吉川 「させてよ。死する人に何も期待しないでよ」


藤村 「頑張って人をハッピーにして死ぬなんて最高の人生じゃない」


吉川 「おかしいでしょ。頑張り尽くして死ぬ人なんて誰も見たくないよ。鮭の産卵じゃないんだから」


藤村 「お前なしでどうすりゃいいんだよ。俺一人じゃフラッシュモブじゃなくて気の触れた人だよ」


吉川 「言おう言おうとは思ってたけど、二人でもフラッシュモブと呼ぶのはきついぞ。気の触れた二人にしかならない」


藤村 「俺の婚活はどうなるんだよ!」


吉川 「ごめんな。余命だけはもうどうにもならないから」


藤村 「死んでも参加しろよ!」


吉川 「おい、死ぬなじゃなくて死んでもなの? なんでお前の婚活にそこまでかけなきゃいけないんだ」


藤村 「死中に活を求めるって言うだろ」


吉川 「そんな活じゃねーよ」



暗転

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