助け

藤村 「シッ! 静かに。助けに来た」


吉川 「なんですかあなた」


藤村 「声を出すな。ここはすでに囲まれてる」


吉川 「え。まぁそうだと思いますけど。だからなんですか?」


藤村 「すべてを説明している暇はない。死にたくなければ俺について来い」


吉川 「えー。あの、本当に私? 身に覚えがないんですが」


藤村 「あんたになくてもこっちには山ほどあるんだ」


吉川 「参ったな。急いでるんですけど」


藤村 「気が合うな。こっちも急いでる。ぼやぼやしてると命はないぜ」


吉川 「いや、だから!」


藤村 「お前は気づいてないかもしれないが、周りのやつらは素人じゃない」


吉川 「知ってますよ。今マラソンの最中ですよ?」


藤村 「リズムを乱すな。感づかれるぞ」


吉川 「なに言ってるの? あなたも参加者なの?」


藤村 「そうだ。お前を守るために参加した。ちなみに初参加だ」


吉川 「なにから?」


藤村 「お前が標的になってるんだよ」


吉川 「大丈夫ですか? 息切れてますけど」


藤村 「ちょっとペース落とそう」


吉川 「嫌ですよ。タイム、ここまでは順調なんだから」


藤村 「タイムと命どっちが大事なんだ」


吉川 「なにが起こるの? それだけでも教えて」


藤村 「だからあれだよ。突然、わーってなるんだよ」


吉川 「何一つ具体的なことがわからない。わーってなるくらいなら放っておけばいいじゃないですか」


藤村 「違う違う。それとは次元が違う。わーってなるわーっ加減が段違いなんだよ」


吉川 「わーっ加減で言われても事の深刻さは伝わらないですよ」


藤村 「実はわーっではなくてギャーッだ」


吉川 「ギャーッてなるんですか?」


藤村 「そうだ。ギャーッてなる」


吉川 「それはまずそうですね」


藤村 「だからそう言ってるだろ。一刻も早くここを離れるぞ」


吉川 「離れてきてるのあなたじゃないですか。置いていきますよ?」


藤村 「待ってって! もう一回言うぞ? ギャーッてなるんだ」


吉川 「もうちょっと具体的な説明できないですかね?」


藤村 「ギャーッてなってバーン。ダカダカダカ! こっちだ! ウッ! す、すまん……。てなるんだよ」


吉川 「いや、寸劇じゃなくて。その説明はどれだけ掘り下げてもピンとこないですよ」


藤村 「命ってわかるか?」


吉川 「わかりますよ、そのくらい」


藤村 「それが、グシャーン! だ」


吉川 「動詞が全部擬音の人なの?」


藤村 「ちょっと、水……」


吉川 「給水所さっき過ぎましたよ。次はもうちょっと先ですよ」


藤村 「もういいだろ。これだけ走れば」


吉川 「別に満足するまで走る競技じゃないんですよ。あなたこそ無理しないで休んだらどうです?」


藤村 「そんなわけにはいかないだろ。お前の……。お前の命が……。危ないから」


吉川 「自分が瀕死じゃないですか。走りながら喋るから」


藤村 「もういいでしょ」


吉川 「またそれ? さっきも聞いたよ。語彙すらなくなってる」


藤村 「あの、おんぶ」


吉川 「なんで!? どうして私がそんなハンデもらわなきゃいけないんですか」


藤村 「どうなってもいいのか?」


吉川 「どうかなってるのはあなたでしょうが」


藤村 「ひどいよ。せっかく助けに来たのに」


吉川 「知らないですよ」


藤村 「仲間だろ? 見捨てるなよ」


吉川 「仲間になった覚えもないし、抜けさせてもらいます」


藤村 「そう簡単に抜けると思うのか?」


吉川 「ではお先に~」


藤村 「簡単に抜いていくなよ……」



暗転

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