真実の鏡

藤村 「こちらは真実を写す鏡。あなたの隠された姿が写し出されます。それは目を背けたくなるような醜悪な姿かもしれません。それでもあなたは自らの真実の姿を見たいと思いですか?」


吉川 「はい」


藤村 「わかりました。ではこちらにお立ちください。目の前に現れたその姿こそ、あなたの真実の姿です!」


吉川 「……?」


藤村 「言葉もないほどですか?」


吉川 「あの、写ってないんですけど?」


藤村 「え? あれ? どうしたんだろ。ちょっと再起動しますね」


吉川 「再起動?」


藤村 「なんだろ、ウィンドウズアップデートかな?」


吉川 「ウィンドウズなんですか? 真実の鏡が」


藤村 「なんかおかしいっすね。どこか触りました?」


吉川 「いや、触ってないです」


藤村 「あれ~? ちょっとわかんないな。どうしますかねぇ。俺の手品でも見ます?」


吉川 「なんで!?」


藤村 「ほら、せっかくだから。ねぇ? 何も見ないで帰すの可哀想だし」


吉川 「それで手品ですか? なんかそれは真実の鏡と関連のあるような?」


藤村 「いえいえ。輪ゴム使ったやつ。You Tubeで覚えたの」


吉川 「それは見ないですよ。全然見たいと思わない」


藤村 「まだ誰にも見せたことないんですよ?」


吉川 「なにありがたみ出してるんですか? ないですよ。そんなものに価値は」


藤村 「ま、そっすよね。あ、りんご食べます? 田舎から送ってきたの」


吉川 「なに? なんなの? 友達感出さないでよ。真実の鏡でしょ?」


藤村 「占いは? 何座ですか?」


吉川 「蟹座ですけど」


藤村 「蟹座は絶好調ですね。今週は負け知らず。血液型は?」


吉川 「好きなのはO型ですけど、それが何の意味あるんですか?」


藤村 「ほら、だいたいここ来る人はそういうスピリチュアルなの好きだから」


吉川 「一緒にしないでくださいよ。なんだよ、真実の鏡っていうから来たのに」


藤村 「そうだけど。真実の鏡もそんなにありがたがるほどのものじゃないですよ?」


吉川 「そうなの!? だって真実の姿でしょ」


藤村 「一応そういう事になってますけど。実際はほら、ちょっと盛った感じの姿が写し出されるだけで」


吉川 「盛ってるの?」


藤村 「だって変に写したらクレームとか来るじゃないですか。きついんですよ、こういう商売してると。ネットでマイナス評価つけられたり」


吉川 「そうなんだ」


藤村 「あ。ちなみに真実のプリクラもありますけど」


吉川 「真実じゃないでしょ、それはもう」


藤村 「真実っていうとウケるんですよ。嘘だらけの世の中だから」


吉川 「急にJ-POPの歌詞みたいなこと言い出したな」


藤村 「ただこっちも商売でやってるから、できる限りお客さんには気持ちよく帰ってもらいたいですしね」


吉川 「それを聞いたら全然気持ちよく帰れないわ」


藤村 「とりあえず直るまでは真実の鏡も……。あれ? 写ってるじゃない」


吉川 「直ったんですか?」


藤村 「わからない。なにもしてないけど。ほら、俺の真実の姿。ビートきよしにちょっと似てる」


吉川 「それでいいの? 望んでるのか、それを」


藤村 「おまたせしました。こちらに立ってください。目の前に現れたその姿こそ、あなたの真実の姿です!」


吉川 「……写ってませんけど?」


藤村 「あれぇ~? なんでだろ。お客さん、なんかしました?」


吉川 「いいえ。血を吸ってるだけですけど?」



暗転

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