バレンタイン

吉川 「……クソッ」


藤村 「どうした? ところによりご機嫌斜めじゃないか」


吉川 「なんでお前はそんなに朗らかでいられるんだ」


藤村 「クサクサしてどうする。昔から言うだろ? 笑う門にはクリティカル」


吉川 「言わないよ」


藤村 「ははぁ~ん、さてはバレンタインデーにチョコレートの一つももらえず、その悔しさをバネに政界に打って出るつもりですな?」


吉川 「政界には打って出ないけど、もうちょっとオブラートに包んで言ってくれ」


藤村 「ルルルルル~♪ チョコもらえなぁ~い♪」


吉川 「ビブラートだな。それは」


藤村 「まったく、相変わらず小さい男だな。そんなチョコレートごときで目くじらを立てて」


吉川 「そういうお前はどうなんだよ?」


藤村 「うちはほら、代々旧暦だからバレンタインも旧暦だよ」


吉川 「そんな言い訳があるか。だいたいどこの女の子が旧暦のバレンタインを知ってるんだ」


藤村 「あとほら、俺は糖尿の気があるから、チョコレートは毒みたいなもんだ」


吉川 「お前はわかってない! あれは愛情の証なんだぞ。俺とお前は世界の誰からも愛されてないんだ」


藤村 「話が極端なやつだな」


吉川 「俺は世界中のカップルを滅ぼすために草の根運動をするぞ」


藤村 「野望の割には小さいことからコツコツとやるんだな」


吉川 「まずは座り込みだ。俺はもうここから一歩も動かない」


藤村 「別にそれはまるでかまわないんだけど、昔から言うだろ? 人の恋路を邪魔するやつは、明日は明日の風が吹く」


吉川 「なんだ、その根本的に何も解決してない教訓は」


藤村 「違ったっけな。人の恋路を邪魔するやつは、母を訪ねて三千里」


吉川 「訪ねないよ。アルゼンチンまで行っちゃうつもりかよ」


藤村 「人の恋路を邪魔するやつは、弾丸特急ジェットバス」


吉川 「低予算映画だ! なんで恋路を邪魔したらバスになるんだ」


藤村 「人の恋路を邪魔するやつは、諸行無常の響きあり」


吉川 「うむ。心に染み入りますなぁ……」


藤村 「人の恋路を邪魔するやつは、生麦なまもめなみゃたみゃも」


吉川 「言えてない」


藤村 「人の恋路は犬も食わない」


吉川 「短くなった。でも犬は近い! 動物系!」


藤村 「人の恋路を邪魔するやつは、象に踏まれても壊れない」


吉川 「どれだけ頑丈なんだよ。でも、近くなってきてる」


藤村 「人の恋路を邪魔するやつは、馬に蹴られて……」


吉川 「それだ!」


藤村 「ルルルルル~♪」


吉川 「そこでビブラートか」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る