電気自動車

吉川 「すみません、こちらって電気自動車扱ってますか?」


藤村 「いらっしゃいませ。はい、もちろんです。電気自動車をお探しですか?」


吉川 「あ、はい。あります?」


藤村 「今うちは力を入れてるんですよ」


吉川 「よかった」


藤村 「失礼ですがお客様。電気の方ははじめてですか?」


吉川 「そうですね。やっぱり今の時代ちょっと気になりまして」


藤村 「なるほどですねー。ではご自宅の方は薪や石炭などで?」


吉川 「いや、家には電気通ってますよ」


藤村 「あ、よかった。でしたら電気の説明の方は必要ないですかね」


吉川 「江戸時代じゃないんだから、電気くらい知ってるでしょ」


藤村 「いやいや、案外多いんですよ。電気もわからず自動車も鉄のイノシシだなんて驚く人が」


吉川 「クロコダイル・ダンディーみたいな人だな。普通の現代人の知識はありますよ」


藤村 「それなら説明が省けて助かります。こちらがうちで扱ってる電気自動車になります」


吉川 「見た目はガソリン車と変わらないですね」


藤村 「気をつけてください。ビリっと来ますから」


吉川 「え? ビリっと来るの?」」


藤村 「電気自動車ですから」


吉川 「そういうことなの!? やだな。怖いじゃん」


藤村 「あ、ビリっと来ないほうがいいですか? 一応設定で切れますけど」


吉川 「じゃ切ってくださいよ。なんでビリっとさせるんですか」


藤村 「やっぱりせっかく電気自動車に乗ったからにはビリっと来て欲しいというお客様がいらっしゃるので」


吉川 「本当に? そんな人いるの?」


藤村 「いますとも。もっと刺激が欲しいとか、鉄のイノシシだとか」


吉川 「さっきのクロコダイル・ダンディーの人じゃん。その人オンリーだろ」


藤村 「こちらが電気キーになります。ビリっとさせときます?」


吉川 「いや、いいよ。私に関してはあらゆるビリっとくるサービスを止めてくれ」


藤村 「かしこまりました。この電気キーを電気鍵穴に入れて回すと電気エンジンがかかります」


吉川 「全部電気ってつくんだ」


藤村 「やっぱりせっかく電気自動車に乗るんだからつかないと味気ないというお客様もいらっしゃるので」


吉川 「変わった人もいるな」


藤村 「電気鉄のイノシシとか」


吉川 「またクロコダイル・ダンディーかよ。その人に基準を合わせないでよ」


藤村 「なおこちら今ご契約をいただくと可愛いマスコット電気チュウのグッズもついてきます」


吉川 「電気チュウ。それ、見たことある感じなんだけど」


藤村 「うちのオリジナルの。黄色いちょっとぽっちゃりした電気ネズミです。大人気なんですよ」


吉川 「パクってるでしょ」


藤村 「なにをおかしなことを。うちのピk電気チュウは完全にオリジナルです」


吉川 「ピカって言いかけたじゃん。もう無理だよ。通らないよその理屈は」


藤村 「お客様、そこまでおっしゃるなら我々にも言い分があります」


吉川 「え、なに?」


藤村 「どうかこのことは内緒にしておいてください」


吉川 「開き直ったのか。ま、いいよ。黙っておくよ」


藤村 「本当ですか? そんなこと言ってネットに書いて炎上させたりするんじゃないですか?」


吉川 「しませんよ。面倒くさい。疑うんなら最初からやらなきゃいいのに」


藤村 「どうも信じられないな。このことがバレたら私は身の破滅ですよ」


吉川 「あなたの身のことなんてそもそも気にしてないんだから。言いません」


藤村 「わかりました。ではこちらにお座りください」


吉川 「随分ごつい椅子ですね」


藤村 「電気椅子です」


吉川 「口封じかよ」



暗転

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