鬼  「いや、だから扱いが不当だと思うんですよ」


吉川 「そんなこと言われたって」


鬼  「こっちは半裸でうろちょろしてるだけですよ?」


吉川 「十分問題だと思うけど」


鬼  「まじ、いじめですよ。これは。さすがの私だって泣きますよ?」


吉川 「鬼の目にも涙か」


鬼  「でたでた! 慣用句。なに? 私が泣くのがそんなにおかしいですか? 私だって泣きますよ。ワイシャツにカレーうどんの汁が飛び跳ねたりしたら泣きますよ!」


吉川 「ワイシャツ着るんだ」


鬼  「たまにはキチっとした格好もしますよ。それなのにアレですか? みんなは豆を投げつけて、鬼は外ですか?」


吉川 「でもそう言う行事だから」


鬼  「鬼は外は百歩譲ってアリとしましょう。じゃ、福は内ってなに? 福って何? 福井? 福島?」


吉川 「福の神じゃないかな」


鬼  「あれおかしいよ! 内とか言いながら豆投げつけてるし。知ってる? 豆当たると痛いの」


吉川 「痛いでしょうね」


鬼  「たかが豆だって舐めてるでしょ? あれすっげー痛いのよ」


吉川 「なんていうか。ゴメン」


鬼  「私がいくら鬼でも豆鉄砲食らったような顔するよ?」


吉川 「ちょっと可愛いな」


鬼  「まじ、みんな鬼に対して厳しすぎ」


吉川 「でも地方によっては鬼も内っていうところもあるみたいよ」


鬼  「そう! それが大事。その心意気が大事だよ。鬼も一緒に祝いたいよ。みんなで恵方巻きかぶりつきたいよ」


吉川 「なかなか憎めないやつだな」


鬼  「もうみんな、鬼って聞いたらすぐに退治とかいうでしょ? アレはダメだよ。虐待だよ! 差別だよ。鬼だって人間だよ!」


吉川 「いや、鬼は鬼でしょ」


鬼  「広い意味で言えばってことだよ。人類皆兄弟、鬼も人間ってことでいいじゃん」


吉川 「わかった。来年の節分からは改めるよ」


鬼  「プーッ! 笑かす! 来年だって!」


吉川 「いや、別におかしいことは言ってないけど」


鬼  「ヒーヒー。苦しい。来年だって! 来年! オニ面白い!」


吉川 「あー。来年のこと言うと鬼が笑うのか」


鬼  「もう! 笑わせないでよね」


吉川 「ちなみに再来年のこというとどうなるの?」


鬼  「どうって、角が……回る?」


吉川 「うわ、地味!」


鬼  「地味とか言うな! ドリルみたいになって、地中とか進めるようになる」


吉川 「気持ち悪い鬼だなぁ」


鬼  「失敬な! そういう差別の心がいけないって言ってるんでしょ!」


吉川 「いや、別に差別してるわけじゃ」


鬼  「ともかく、みんなと相談してどうするか決めてよ!」


吉川 「わかった。差別をやめるか、このまま伝統を守るか、どっちか選ぶよ」


鬼  「早く決めて!」


吉川 「いや、今すぐ? 無理だよ」


鬼  「なんでよ」


吉川 「だって、あなたがいると決められないよ」


鬼  「どうして! 私の目の前で決めてよ!」


吉川 「選択は、鬼のいぬ間にしないと」



暗転

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