復讐
吉川 「お前に、妻と子を殺された俺の気持ちがわかるか!」
藤村 「わからないよ」
吉川 「だろうな」
藤村 「ただ、お前も俺の気持ちがわかるのか?」
吉川 「お前の?」
藤村 「そう。誰にも言っていなかったが。俺は先月、FXで80万溶かした」
吉川 「80……。へ?」
藤村 「眼の前が真っ暗になったさ」
吉川 「おい。お前は80万無くしたのと、俺の妻と子を殺された気持ちを一緒にしたのか?」
藤村 「俺たちは似た者同士さ」
吉川 「違うよ? ぜんぜん違う。一緒にしないで!」
藤村 「お前がなんと言おうとな、世間から見たら俺たちは同じ穴のムジナだよ」
吉川 「違う違う。バカ言わないで? お前の穴と俺の穴は全然違う穴だよ」
藤村 「実は昨日、パチスロで3万いかれた。これを聞いてもそう言えるのか?」
吉川 「言えるよ。なに追い打ちで不幸を重ねたからイーブンみたいな顔してるんだよ」
藤村 「同じ穴のムジナだろ?」
吉川 「根本的に違うよ。お前の穴はアリの巣みたいな穴だろ」
藤村 「地球規模で考えれば穴なんてどれも同じさ」
吉川 「パチスロの3万を地球規模で考えるの、さすがに地球に申し訳ないと思わないの?」
藤村 「悲しみの深さを比べるなんてナンセンスだと思わないのか?」
吉川 「正しいこと言ってる風だからたち悪いな。比べるも何も全然違うだろ」
藤村 「あとここに来る途中でガム踏んだ」
吉川 「追い不幸が弱いよ。あとガムひと押しでいけるって思った? 図々しすぎない?」
藤村 「妻と子がいないというのなら俺もお前も一緒だ」
吉川 「最初からいないだけだろ。それを一緒って言わないよ」
藤村 「最近キャバクラでお気に入りの子ならいた」
吉川 「だからどうした!? 今までの人生において一番だからどうしたと言いたい発言だな」
藤村 「いい子だったんだ。キャバクラでお金をためて渡米してダンサーになる夢を叶えたいと言っていた」
吉川 「絶対ウソだろ。遊ぶ金欲しさだよ、それ」
藤村 「彼女の喜ぶ顔が見たくて、俺はポッキーもキスチョコも頼んださ」
吉川 「割りと安めのばっかり頼んでない?」
藤村 「そんな彼女にも、もう会うことはできない」
吉川 「そうか。お前の彼女も……」
藤村 「お店を出禁になったから」
吉川 「何をしたんだ! よくしんみりムードで語れるな、そのエピソードを」
藤村 「おまけに裁判所から彼女の200メートル以内に近づいちゃいけないと裁定が下されて」
吉川 「ストーカーじゃん。100%お前が悪いだろ」
藤村 「そんな俺の気持ちがお前にわかるか!」
吉川 「わからない。それはまったくわからない。わかりたくもない」
藤村 「だからお前も復讐はやめろ」
吉川 「だからっていう接続詞の使い方知ってる? 理屈が通ってないだろ」
藤村 「かつての俺は、お前と同じように復讐を誓ってそれだけを支えに生きていた。そしてそれを成し遂げた時になにもないことに気がついたんだ。年を取り、虚しさだけが残った」
吉川 「藤村……」
藤村 「お前に俺のようになって欲しくないんだ!」
吉川 「いや、本当。お前みたいにだけはなりたくないわ。やめるよ、復讐」
暗転
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