接待

藤村 「ナイスショット!」


吉川 「ほっ!」


藤村 「決まってる! 彫像にしたい!」


吉川 「あの……」


藤村 「官能美が天を衝く!」


吉川 「藤村くん」


藤村 「はい?」


吉川 「ちょっと恥ずかしいんだが」


藤村 「恥ずかしがることありませんよ。吉川さんはもう芸術と言ってもいい」


吉川 「そうじゃなくてキミが」


藤村 「私が? なにか不都合でもありましたか?」


吉川 「あるよ。ある。普通そう言う掛け声はさ、接待ゴルフとかでやるものじゃない?」


藤村 「そうですね」


吉川 「ヨガ教室でやるもんじゃないと思うんだよ」


藤村 「そうなんですか?」


吉川 「周りの方の目を見なさいよ。他に誰も部下を連れて太鼓持ちさせてる人いないでしょ」


藤村 「でも吉川さんゴルフしないじゃないですか」


吉川 「しないよ。だからってヨガ教室についてくるかな?」


藤村 「私の方としてもヨイショのしどころがもうここしかないので」


吉川 「それにボクはやり始めたばかりでまだビギナーだから。褒められるようなヨガはできてないんだよ」


藤村 「なにをおっしゃいます。もしそうなら才能ですね。ヨガのために生まれてきたようなものです」


吉川 「それはそれで狭すぎる人生でやだな」


藤村 「吉川さんのヨガは一つ一つのポーズにオリジナリティがありますから」


吉川 「あんまりオリジナリティあっちゃいけないんじゃない? 先生のポーズを真似しなきゃいけないんだから」


藤村 「先生も吉川さんだけは見る目が違ってますよ。なんというかこう、腫れ物に触るような」


吉川 「それはキミが隣で掛け声をかけてるからだろう」


藤村 「いえいえ。私なんぞ。いないものと思ってもらえば」


吉川 「思えないよ。ヨガ教室でおじさんの横でゴマ摩ってる人間は無視するのが不可能だよ」


藤村 「そういうもんですかね? ゴルフだと別に……」


吉川 「ゴルフはいいんだよ。広いし。仲間内でやってるじゃないか。この教室に来たばっかりだからあんまり顔見知りでもないんだよ」


藤村 「そんなことないですよ。渕上さんも小夜子さんも村田さんの奥さんも由紀恵姉さんもみんな良い人で」


吉川 「なんでキミは先に打ち解けてるの? ボクは名前も知らないのに」


藤村 「大丈夫です。そこはお任せください。みなさんに吉川さんのことを十分アピールしておきましたから」


吉川 「しなくていいのよ。余計なお世話だよ。知らないおじさんに知らないおじさんをアピールされた人の気持ちを考えてみてよ。ボクはどういう顔で挨拶すればいいの」


藤村 「由紀恵姉さんナイスポーズでーす!」


吉川 「そっちにも言うの? 卒がないねぇ」


藤村 「先生、そろそろもっと難易度の高いヨガファイアとかどうですかね?」


吉川 「先生に余計なこと吹き込むなよ。ヨガ教室でヨガファイアやる先生いないよ」


藤村 「さぁみなさん。あと10秒キープ! がんばがんば!」


吉川 「お前が仕切りだすなよ。この教室唯一の部外者のお前が」


藤村 「ささ、吉川さん。私に遠慮せずにナイスポーズ決めちゃってください」


吉川 「遠慮して決めないわけじゃないからね」


藤村 「皆さんラストです。下向きの犬のポーズ。先生のポーズをよく見て!」


吉川 「もうすごい邪魔だよ。全然ヨガに集中できない」


藤村 「ナイスセクシーショット! キープです! 素晴らしい! 私もがんばります!」


吉川 「お前は何の役に立ってるんだよ」


藤村 「私は尻尾を振ってますから」



暗転

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