こだわり

藤村 「最近こだわってるものがあるんですよ。これはコーヒー豆なんですけど」


吉川 「いいですねぇ、そういう暮らし憧れるなぁ」


藤村 「この豆はこだわって個人輸入したやつなんです」


吉川 「へー、すごいな」


藤村 「コピ・ルアクって知ってます?」


吉川 「知らない」


藤村 「ちょっと面白いんですが引かないでくださいね。実はジャコウネコにコーヒーの実を食べさせると糞としてコーヒー豆が出てくるんです。これが微妙な風味がついていて世界でも好事家の中で珍重されてる貴重な豆なんですよ」


吉川 「あ! なんか聞いたことある! 動物のうんこの中でできるコーヒー豆って」


藤村 「そうそう。イメージとしては良くないんだけどでも最高のコーヒー豆なんですよ」


吉川 「面白いなぁ。すごいこだわってるんですね」


藤村 「焙煎方法もこだわってるんですよ。コーヒーの味の好みっていうのは結局焙煎具合ですから」


吉川 「そうなんだ」


藤村 「牛糞です」


吉川 「牛糞? 牛のウンコってことですか?」


藤村 「昔から燃料として使われてるんですよ。特に最近は環境に配慮したほうがいいですし、やってみるとこれも風味が出ていいんですよね」


吉川 「はー、そうなんですか。さすが」


藤村 「ただ火力が安定しないので目が離せないんですけど」


吉川 「すごいなー」


藤村 「とりあえず飲んでみますか?」


吉川 「わー、嬉しい」


藤村 「淹れますね」


吉川 「あ、水もこだわってるんですか!?」


藤村 「水は下水です」


吉川 「下水!?」


藤村 「トイレとかで流すやつ」


吉川 「え? え? どういうことですか? あー、でもそういうのもあるのか。下水の持つバクテリアや酵素が味に微妙に影響を与えたり」


藤村 「いえ、そこはこだわってないですね」


吉川 「こだわってないのかよ! なんで今までこだわってちょっとおかしな感じまでいってたのに水にこだわらないんだよ。全体のフィニッシュを見据えてこだわれよ!」


藤村 「別にそこにこだわりたいわけじゃないんで」


吉川 「下水で淹れたコーヒー飲まそうとしたの? 気が狂ってるの?」


藤村 「でもほら、一回沸騰させてるから多分大丈夫なんじゃないですか?」


吉川 「多分じゃないよ。逆になんで水道水じゃないんだよ。こだわらないなら普通そっちに舵を切るだろ」


藤村 「やっぱりここまできたらつながってる方が縁起もいいかと」


吉川 「つなげるなよ! 最悪のつながりだよ。だいたい自分ではどうやって飲んでるんだよ」


藤村 「私はコーヒー飲めないので主に鑑賞とかですかね」


吉川 「だったらこっちにも飲むことを勧めないでくれる?」


藤村 「飲みたそうだったから、本当は嫌だったけどしょうがなく」


吉川 「そりゃ飲む感じになるでしょ。コーヒーなんだから。知らないものそんなこだわり方してるだなんて」


藤村 「コーヒーと一緒にこれでもつまんでもらえば……」


吉川 「なにこれ? チョコ?」


藤村 「いえ、普通のうさぎのウンコです」


吉川 「普通じゃねえんだよ! なんだよ、なにをもってして普通っていう枕詞をつけられるんだよ。うさぎのウンコの時点でそれ以上の異常さはないよ」


藤村 「あ、すいみません。異常なうさぎのウンコです」


吉川 「言い直すなよ。素直に。そもそもの問題が違うんだよ。言い方を改めたらまかり通ると思ってるの? だいたいお前は何にこだわってるんだよ」


藤村 「うんこに」


吉川 「それ最初に言ってくれない?」



暗転

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