イフ肉
藤村 「いよいよ待ちに待った12月29日だね」
吉川 「うん? なにかあったっけ?」
藤村 「またまたぁ~。一年ぶりのイフ肉の日ですよ!」
吉川 「はぁ。イフ肉? ちょっと知らないかも」
藤村 「知らない? イフ肉の日。12月でイフ、29日で肉と語呂合わせになってるんだよ。だからこの日はイフ肉の日」
吉川 「知らなかった。っていうか、イフ肉って単語自体を知らないんだけど、その日って言われても納得感がない」
藤村 「知らないの? そこからかぁ。わかった。ちょっと込み入ってるかもしれないけど簡潔に説明すると、動物の筋肉ね。主に食用家畜の筋肉である食用肉のことをざっくりと肉と呼んでるわけ。そのイフだからイフ肉」
吉川 「待って。肉はわかるよ。肉の説明をちゃんとしてくれたのはいいんだけど、イフの説明なくない? わからないのはどっちかというとそっちなんだけど。説明量のバランスが著しく悪い」
藤村 「イフのこと? イフはなんていうか、概念的なものだから説明が難しいけど『もし』みたいな感じで」
吉川 「if? 英語の?」
藤村 「そうそう。イフ」
吉川 「あ、そのイフなんだ。それならなんとなくわかる」
藤村 「だからイフ肉の日のということでね」
吉川 「待って待って。イフはわかるんだけど、イフ肉がわからない。イフと肉が合わさった用例を義務教育で習ってない」
藤村 「肉はわかるんでしょ? でイフもわかるんでしょ? なのにイフ肉がわからないの?」
吉川 「その俺の知性に問題がある感じで詰めていくのやめてくれない? イフ肉はわからないと思うよ、誰も」
藤村 「イフの肉なんだけど?」
吉川 「知ってる側はそれでいいかもしれないけど、全く知らない人間がそれ対して『あー、はいはい。イフの肉のことか』って飲み込むの難しいと思うよ。なんの肉なの?」
藤村 「なんの肉っていうか、なんの肉でもないんだけど」
吉川 「もう取っ掛かりが一つもないよ。なんの肉でもないイフ肉に対して思いを馳せることは現代では不可能とされてることだよ」
藤村 「だから、なんの肉でもないんだけどイフ肉なんだよ。それがわからないと言われると説明のしようもない」
吉川 「お互いの見てる方向が違いすぎて怖くなってきた」
藤村 「クリスマスってわかる?」
吉川 「バカにしてるのか? わかるよ、クリスマスくらい」
藤村 「よかった。それはわかるんだ。クリスマスはチキン食べるよね? 本当はターキーらしいけど、日本ではほぼチキンを食べる感じになってる」
吉川 「うん、それはわかる。俺も食べたし」
藤村 「ここまではOKね。で、ジャンルがちょっと変わるんだけど正月って知ってる?」
吉川 「知ってるよ。なんでそんな恐る恐る聞いてるの? 俺が『正月なんて聞いたこともないです』と答えると思った?」
藤村 「よかったよかった。お正月はお正月でおせちとかさ、ちょっといいものを食べたりするじゃない?」
吉川 「するね。昔はそういう手間をかけないためにお節を作ったと聞くけど、現代の正月はむしろ贅沢なものを食べる傾向にあるね」
藤村 「じゃあ、イフ肉の日もわかる?」
吉川 「跳躍が強すぎない? じゃあという接続詞で飲み込むには距離が出すぎだよ。クリスマスと正月の間ってこと?」
藤村 「そう。クリスマスで贅沢をしました。で、正月も贅沢をします。その間はさすがにお財布も厳しいし内臓も休めたいし、イフ肉で済ますかっていう」
吉川 「あー! なんかわかった! 急にわかったよ。今すごいアハ体験みたいになってる。イフ肉! 肉じゃないけど肉的な満ち足り方をするイフ肉ってこと?」
藤村 「それだよ! わかってくれた」
吉川 「わかった。完全に理解した。じゃあ今日の食卓にはイフ肉が出るの?」
藤村 「そう! ひじきと豆の煮物と、味のりと大根のお味噌汁とイフ肉」
吉川 「イフ肉! わかった! なるほどね、確かにそのラインナップは弱いけどイフ肉があると思うと心は安らか。で12月29日はイフ肉の日!」
藤村 「そうだよ! 俺は普段からイフ肉をやってるけど、この日がイフ肉の日だから」
吉川 「普段からやってるんだ。この食卓にもし肉があったらなぁっていう気持ちで。じゃ、今日は全国的にイフ肉を!」
藤村 「そうなんだよ。むしろイフ肉という肉に思いを馳せることにより今までぼんやりと認識していた肉に対する思いを明確にするわけ。自分が最も好きな肉は何なのか。どんな肉を食べたいか。最後の晩餐に食べる肉とは」
吉川 「なるほどー。深い! そんな深い話になると思ってなかった。確かに肉に対して当たり前って気持ちになってる部分はあるからな。この日で身を引き締めるわけか」
藤村 「ただしあんまり意味を考えすぎるのも良くない。なにせ来月があるから」
吉川 「来月? 来月もあるのか。なにか特別な日が」
藤村 「そう。来月の13月29日は意味肉の日だから」
吉川 「一生来ないぞ、その日」
暗転
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