慣用句

吉川 「一体どういう時期にさしかかると、そう言うことを考え付くんだ?」


藤村 「だって日本語使いつづけて、この道30年だよ」


吉川 「それは俺もそうだ」


藤村 「30年と言ったら伝統芸能の世界でもそこそこの地位にいてもおかしくない。弟子もいるはず」


吉川 「まぁ、そうかなぁ」


藤村 「スマホアプリ一筋30年! とか、すごいことになってる」


吉川 「30年前はなかったと思うけど」


藤村 「アカスリ一筋30年とかだったら、相手がもう一反木綿みたいになっちゃってる」


吉川 「ペラペラか。同じ相手に一筋でいかなくてもいいと思うけど」


藤村 「だから俺も日本語一筋30年と言うキャリアを活かして、新しい日本語を生み出す」


吉川 「まぁいいんじゃないの? 言葉は日々変化するものだし」


藤村 「だいたい慣用句なんてのは簡単なんだよ。○○に××っていう感じでいけば適当にできる」


吉川 「そう言う部分はあるかもなぁ」


藤村 「やれ、ブタに真珠だの、馬の耳に念仏だの」


吉川 「確かに多い」


藤村 「新しいの考えた。シスコンにホタルの墓」


吉川 「うわぁ……。新しいと言うかどっちかというと古いな。出典が熟成されてるのよ」


藤村 「これは、シスコンにホタルの墓を見せると言う意味」


吉川 「それはわかるよ。……で、泣きっ面に蜂みたいなイメージかな?」


藤村 「いや、意味はね。あるある系」


吉川 「ないよ!」


藤村 「普段、日常にありふれてる面白い状況」


吉川 「滅多にないよ。人はそれほど頻繁にホタルの墓を見ない」


藤村 「とりたてて面白みもない様」


吉川 「意味ありそうな感じだったくせに」


藤村 「また新しいの考えた」


吉川 「どんなの?」


藤村 「Yシャツにカレー」


吉川 「あー。それは大変だ」


藤村 「インド人を指す言葉」


吉川 「ええー! 状況じゃないの? 人?」


藤村 「まぁ、インド人は全員つけてるからね」


吉川 「ひどい偏見だ」


藤村 「じゃ、次ぎいきます」


吉川 「どんどんくるな」


藤村 「パンにカビ」


吉川 「なんと心に響かない慣用句であることか」


藤村 「これはね、技の名前」


吉川 「なんだよ! 技って!」


藤村 「なんというか、毒霧系のやばいやつ! おーっと、さらに追い討ちをかけてパンにカビだーっ!」


吉川 「しかも地味な毒だな」


藤村 「次の慣用句ね、通販にはまる」


吉川 「もう、慣用句っぽさが微塵もなくなった」


藤村 「これはね……これも、技」


吉川 「技かよ! 日常っぽいじゃんか!」


藤村 「相手をロープに振って、通販にはまるぅぅううう!!」


吉川 「いや、はまってないで戦えよ」


藤村 「カードの限度額まで注文だーっ!」


吉川 「知らないよ! 勝手にはまってろよ」


藤村 「まぁ、だいたい慣用句のシステムはつかんだ」


吉川 「見事につかみ損ねてる気がするけど」


藤村 「じゃ、最後」


吉川 「うん。どうせ技の名前じゃないの?」


藤村 「ジャンピングにードロップ」


吉川 「技だ」


藤村 「油断すると避けられてバックをとられるから注意しろということ」


吉川 「これは慣用句なんだ」



暗転

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