大晦日

吉川 「早くしないと年越しちゃうよ」


良子 「ちょっと待って。本格手作りのおソバなんだから!」


吉川 「手打ちなの? なんかすごいなぁ」


良子 「ふぅ、やっと種まき終わった」


吉川 「収穫からっ!? 間に合わないよ! 年越しちゃうよ」


良子 「え? もうそんな時間?」


吉川 「いや、時間とかそういう概念じゃないでしょ。年単位じゃん」」


良子 「あー、計算間違えた」


吉川 「なにに基いた計算なんだ」


良子 「どうしよう? カップのおソバでいい?」


吉川 「むしろそれの方が断然信頼できる」


良子 「ひっどーい! 来年こそはきちんと作るんだから!」


吉川 「俺の部屋で栽培続ける気なんだ……」


良子 「ね、ね、白組と曙どっちが勝ったの?」


吉川 「赤組ね。白組と曙は対決してないから。そんな夢のカードは組まれてないから」


良子 「あ、ほら。吉川くん。おソバがのびちゃう!」


吉川 「うん。ね、なんで年の瀬におそば食べるか知ってる?」


良子 「ローリング・ソバットをすさまじい回転力でお見舞いするからでしょ?」


吉川 「お見舞いしないよ! ソバはソバットのソバ? 年の瀬とかまるで無視なんだ」


良子 「やってみせようか?」


吉川 「やだよ。なんで意味なくお見舞いされないといけないんだ」


良子 「冗談だよぉ。年末じゃあるまいし」


吉川 「いや、年末ですけど。年末だからって意味もわからないですけど」


良子 「本当は、あれだよ。いつまでも、あなたのソバに」


吉川 「まぁ、それでいいや」


良子 「へへ……」


吉川 「なんだよ」


良子 「なんでもない。ね、年越したらお墓参りいこうよ」


吉川 「いかないよ! 初詣だろ」


良子 「間違えた」


吉川 「なんで新年早々お墓参りしなきゃいけないんだ。間違えようが無い」


良子 「今年一年、吉川くんにはおっちょこちょいで迷惑かけたね」


吉川 「おっちょこちょいで片付けられるレベルじゃないものも多かったけど」


良子 「そんな吉川くんのために、ジャーン! 振袖を着ることにしました」


吉川 「へ、へぇ。マント羽織ってるからどうしたのかと思ったら」


良子 「したいんでしょ? クルクルしたいんでしょ?」


吉川 「いや、別にしたくないよ。俺のことどういう目で見てるんだ」


良子 「吉川くんは、帯クルクルフェチじゃない」


吉川 「そんな応用の効かなそうなフェチになった覚えは無い」


良子 「素直になりなよ! 正直に言えばクルクルしていいよ」


吉川 「いや、どうしてもっていうなら」


良子 「やっぱりフェチ! おフェチ! おフェチ料理!」


吉川 「なんだ、その生臭そうな料理は」


良子 「除夜の鐘がなるっていうのに! 煩悩満タンじゃん」


吉川 「そっちが先に言ってきたんだろ」


良子 「じゃ、クルクルいいよ」


吉川 「いや、いいです」


良子 「なに照れてるの? ちゃんとお風呂はいったから臭くないよ!」


吉川 「別に臭いの問題で言ってるわけじゃない」


良子 「あー! なんかエッチな想像してるでしょ! 平気なんだから。ちゃんと下にはリングコスチューム着てますぅ!」


吉川 「なんで、そんなもの着てるんだ。何を始める気だ」


良子 「いつでも、誰の挑戦でもうける!」


吉川 「そうですか」


良子 「ほら、年末恒例クルクル納めだよ」


吉川 「納めるほどクルクルなんてしてない」


良子 「早くクルってよ!」


吉川 「誤解されるような言い方はやめなさい」


良子 「早くぅ! もう疲れちゃうよ」


吉川 「はいはい。じゃ、すいません。いかせてもらいます」


良子 「カモーン!」


吉川 「クルクルクル……」


良子 「あ~れ~」


吉川 「クルクルクルクル……」


良子 「そしてこの回転力を生かしてローリング・ソバット!」


吉川 「ぐっ……るる……」


良子 「そして、ここでゴングだー!」


鐘  「ゴーン……」



暗転

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