万年筆

吉川 「万年筆に興味があるんだ」


藤村 「それで万年筆乞食とまで呼ばれるこの俺に相談してきたわけだな」


吉川 「そんな嫌な異名があったとは、たった今知ったよ」


藤村 「いつでも呼んでくれて構わないぞ」


吉川 「どういう活動をしたら、そんな異名がつくんだ」


藤村 「主に万年筆の人には言えないようなような恥かしい使い方を啓蒙している」


吉川 「どこの世界に需要があるんだ」


藤村 「価値観の多様化と万年筆の一般化により、近年急激に需要が伸びつつある」


吉川 「そんなダークサイドがあるとは思わなかったよ」


藤村 「まぁ、遠慮せずになんでも聞きたまえ。万年筆を使った最も陰惨な拷問か? それとも耳掻きの反対側のフワフワを利用した最も陰惨な拷問か?」


吉川 「万年筆じゃなくなってる。むしろ拷問のスペシャリストじゃないか」


藤村 「万年筆に関するちょっといい話も用意してるぞ。銃で撃たれたが万年筆が身代わりになり生きながらえた話とか」


吉川 「万年筆に当たるのはちょっと確率低すぎだろ」


藤村 「突然血のつながらない妹と同棲することになり、お風呂に入ろうとしたら、なんとそこには万年筆が!」


吉川 「もはやいい話なのかどうかもわからなくなってきた」


藤村 「万年筆を使ったサクサクジューシーな唐揚げの作り方」


吉川 「そんなことまで万年筆でできるのか。柔軟性ありすぎだな」


藤村 「万年筆を使った、色落ちしない柄物漂白とかもある」


吉川 「本当に万年筆を使ってるのか?」


藤村 「万年筆を使った、ペットボトルでできる驚きの節約術も」


吉川 「使ってないだろ。ペットボトルだけで完結してるだろ」


藤村 「ペットボトルを使った、楽々ゴミの分別法もあるぞ」


吉川 「ついに万年筆の名前すら出てこなくなった」


藤村 「このように万年筆の世界は奥が深いのだよ」


吉川 「生活裏技の世界みたいになってるけど。そもそもね、万年筆に興味はあるんだが普段あんまり字を書くことはないんだ」


藤村 「大丈夫。万年筆が字を書く道具だと思ってるうちはまだまだ上級者だ」


吉川 「上級者でいいじゃんか。他に何に使うんだ」


藤村 「万年筆でものすごい力で殴ると人を殺せるし、万年筆に毒を塗って刺せば人を殺せる」


吉川 「凶器じゃないか。しかも万年筆のポテンシャルを生かしてない使い方だ」


藤村 「万年筆で核ボタンを押せば、世界は核の炎に包まれること間違いなし」


吉川 「もう万年筆がでてくる意味がわからない」


藤村 「あー、核兵器を発射しようとしたけど、上官のサインをもらい忘れた。そんな時に万年筆があれば万事解決」


吉川 「万年筆だけじゃ解決しないだろ」


藤村 「人を殴り殺そうと思ったけど、その前に婚姻届を書かなくては! そんな時も万年筆があればすべては上手くいく」


吉川 「そんな特殊な状況あるか」


藤村 「世界が核の炎に包まれ滅んだあと、数千年の時がたち、新たなる文明が旧世代の遺跡を発掘。そんなときに限って書くものがない」


吉川 「でも、万年筆は一万年もつから平気なわけだ」


藤村 「その通り。インクがカピカピになっていて字は書けないが、これで思いっきり殴れば人を殺せる」


吉川 「使えてないじゃん。筆記用具として役に立たないとダメだろ」


藤村 「万年筆は意外と一万年間書けるわけじゃないんだよ」


吉川 「それはまぁ、大体予想していた」


藤村 「でも万年筆という名前のせいで、絶対的な長寿を約束されたような気がしてしまう。これが問題だ」


吉川 「キャッチコピーみたいなもんだからな」


藤村 「俺はこれに対抗して、45秒筆というものを作った。キャップをあけて45秒だけ使える」


吉川 「もうちょっと使わせてくれ」


藤村 「機能を大幅に制限したおかげで、握り心地、書き心地ともに最高。おまけにインクからフェロモンが出るために虫が大量に寄ってくる」


吉川 「別に45秒じゃなくても実現できそうだが」


藤村 「あえて使用者にストレスを与えることにより、書くという行為をストイックに追及した」


吉川 「45秒過ぎると書けなくなるのか?」


藤村 「いや、別に書くことはできる。ただ45秒過ぎると死ぬ」


吉川 「なんだそれは、どういう呪いのグッズなんだ」


藤村 「気にするな」


吉川 「するよ! 死にたくないだろ、こんなことで」


藤村 「別に筆記者が死ぬわけじゃない」


吉川 「じゃ、誰が死ぬんだ」


藤村 「世界中の万年筆に興味のある人間からランダムに死んでいく」


吉川 「俺もいずれくるじゃないか。やめてくれ」


藤村 「残念だが、この流れはもう止まらないのだ。今、こうしている時にも、世界のどこかでは45秒筆を超過して使っている人間がいるだろう。つまり、次はお前かもしれないのだ」


吉川 「やーめーてーくーれー」


藤村 「……というのが、万年筆を使った陰惨な拷問の一部だ」


吉川 「なんて嫌な実演だったんだ。一瞬、信じかけてしまった」


藤村 「ははは……。うぐっ」


吉川 「ど、どうしたんだ? おい」


藤村 「……」


吉川 「まさかっ!? 死ぬのは、本当だったのか」


藤村 「と思ったが、万年筆が身代わりになり一命を取り留めたのだった!」


吉川 「伏線全部雑に回収するなぁ」



暗転

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る