祓い師
祓師 「祓い給え清め給え! きぇええええい! ……やっぱりダメみたいです」
吉川 「えー。無理なんですか?」
祓師 「ちょっと厳しいですね。さすがの私もここまでの悪霊は」
吉川 「でもちょっとは治まった感じですか?」
祓師 「いえ、余計な刺激したせいで前より悪くなってますね」
吉川 「ダメじゃないですか。何してくれてるんですか?」
祓師 「何ってそういうリスクもあると事前に説明しましたよね」
吉川 「いや、だってそういうのは、一応言っておく感じのやつでしょ? 本当にリスクがあってどうするんですか」
祓師 「確率はかなり低いとも言いましたよ」
吉川 「たとえ1%の可能性だとしても、それに賭けるものじゃないですか」
祓師 「そんなマンガみたいにいきませんよ」
吉川 「これ、祟られるの?」
祓師 「それも明言はできません。ただ、祓われてはいません」
吉川 「ショックー。じゃ、もういいですわ」
祓師 「つきましては祓い代の方を……」
吉川 「祓ってないのに?」
祓師 「いやいや、祓おうとしましたから。それが仕事ですから」
吉川 「でも祓ってないのに?」
祓師 「結果じゃないんですよ。過程に対して賃金が発生するんです」
吉川 「祓ってない場合はいくらなの?」
祓師 「だから祓ってようと祓ってなかろうと一緒なんですよ。説明しましたよね?」
祓師 「納得いかないなぁ」
祓師 「こっちが納得いかないですよ。精一杯やったんですよ」
吉川 「祓ってないのに?」
祓師 「だーかーらー」
吉川 「わかりました。じゃあ私も、払ってないけど払った感を出します」
祓師 「なにそれ!?」
吉川 「お金を払おうっていう気持ちは精一杯持ちました。もう全力で。結果的に払えませんでしたが、過程としては払ったと同じだけの労力を費やしました」
祓師 「違うだろ。そういうことじゃないんだよ」
吉川 「あなたの言ってることと一緒じゃないですか。私はお金払い師みたいなもので」
祓師 「そもそもあなたが依頼したんですよね? 祓ってくださいって」
吉川 「はい。そしてそもそもあなたがお金を要求したのです」
祓師 「いや、そもそものそもそもがさ。私のはそもそもじゃないのよ。あなたのそもそもに対して乗っただけで、そもそも私はそもそもしてないわけですよ」
吉川 「なに、そもそもって?」
祓師 「いや、だから。お金払うのは当然でしょ? なんだよ、メチャクチャだな。胃が痛くなってきたよ」
吉川 「ちゃんと祓ってくれたらこっちも全額払ったのに」
祓師 「だからそれは無理だったの!」
吉川 「そう。だから私も無理なの!」
祓師 「違う! あなたは無理じゃないでしょ。払えるでしょ? 払うつもりだったんだから。私のは実力不足だから」
吉川 「力足らずにすみません」
祓師 「足りてよ! もうなに? ストレスがすごいよ。このやり取りなんなの?」
吉川 「お互い実力が足りずに払えなかったということで。ここは痛み分けということに」
祓師 「ならないよ! 私はそもそも痛みを受ける理屈がないじゃない。祓うのは祓ったんだから」
吉川 「祓えてないのに?」
祓師 「そこに戻らないでよ。その一言が良くないよ。祓えなかった自分も割と傷ついてるのに追い打ちだよ。メンタル強くないんだよ」
吉川 「お互いにこの痛みを乗り越えていこう」
祓師 「お互いじゃないんだよ。完全にそっちの痛みなんだよ。私が請け負う必然性が一ミリもないの。胃がキリキリする」
吉川 「こうなったら平行線だね」
祓師 「勝手に並走してるだけだろ。交わってたんだよ、最初から。普通に払ってくれれば」
吉川 「でもあなたは祓えなかった癖にお金をもらってのうのうと帰ろうとしてるわけですよね? 祓われなかった私は悪霊と一緒でお金まで取られて踏んだり蹴ったりじゃないですか。それはバランスが悪いでしょ」
祓師 「屁理屈! 全部屁理屈! もうヤダ。お腹痛い」
吉川 「大丈夫ですか?」
祓師 「大丈夫じゃねーよ。腹痛いよ!」
吉川 「だったら私も払いたい」
祓師 「そういう理屈だったのかよ」
暗転
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