昨日の夢

吉川 「昨日すごい夢を見たんだよ」


藤村 「食いつきの薄い話だな」


吉川 「まぁ、そう言わずに聞いてくれよ」


藤村 「そんなことより俺の先輩自慢を聞いてくれよ」


吉川 「そっちの方がどうでもいいよ」


藤村 「すごいんだって! 西高20人を一人で倒したんだぜ」


吉川 「いや、俺の夢は?」


藤村 「あと、すごいの! 近所のラーメン屋の大食い記録も持ってる」


吉川 「いいから、俺の夢の話を聞け!」


藤村 「わかったよ。……で、どのくらい大食いだったの?」


吉川 「大食いの話じゃないよ。夢の話」


藤村 「夢と言えば、俺の先輩の夢は天下統一だぜ? デカイだろ!」


吉川 「いや、俺の話を聞け!」


藤村 「絶対、先輩の自慢話の方が面白いのに」


吉川 「夢の中でな、戦争が始まるんだよ」


藤村 「戦争といえば俺の先輩もすごいんだよ」


吉川 「待て待て、どこまで先輩はでてくるんだ。先輩色々やりすぎだろ」


藤村 「大化の改新は俺が治めた、って言ってたもん」


吉川 「嘘だろ! いくらなんでも嘘だろ」


藤村 「中臣鎌足は強かったらしいぜ」


吉川 「すごい適当っぽい感想だな」


藤村 「あの時はさすがに死を覚悟したそうだ」


吉川 「あの……俺の夢の話は?」


藤村 「あぁ、ゴメンゴメン。なんだっけ?」


吉川 「うん、戦争が起きてね、俺は戦場に行くんだ」


藤村 「ふぅ~ん」


吉川 「しかし故郷には愛した女を残している」


藤村 「愛した女と言えば、俺の先輩もな……」


吉川 「わかったから。先輩すごいから! だから俺に話をさせてくれ」


藤村 「わかったよ。それで?」


吉川 「俺は敵に囲まれ絶体絶命のピンチに追い込まれる」


藤村 「絶体絶命と言えば……」


吉川 「しつこいな。先輩の話は後で聞くよ」


藤村 「わかってりゃいいんだよ」


吉川 「進むも敵、戻るも敵、俺はいよいよ自分の命が終わるのを感じたよ」


藤村 「お疲れさん」


吉川 「いや、軽いな! もっとハラハラドキドキしてくれよ!」


藤村 「だって夢だろ?」


吉川 「うん。まぁ、夢だけど」


藤村 「どうせ夢オチってわかってるんじゃなぁ」


吉川 「それでもこれからが俄然盛り上がるんだよ」


藤村 「ふぅん。……で?」


吉川 「その時、俺の目の前に影が!」


藤村 「誰だ?」


吉川 「トレバー軍曹だ!」


藤村 「誰だよそれ! 初登場だよ」


吉川 「トレバー軍曹は、ポーカーが好きでいつもジョークばっかり言っている腕利きの兵士だ。ちょっと女に弱いのがたまにキズ」


藤村 「知らないよ。そんな設定」


吉川 「戦場に出るものなら誰もが知っている」


藤村 「出てねーもん、俺。っていうか、お前の夢の話だろ」


吉川 「まぁ、説明が若干足りなかったかも知れない」


藤村 「全然足りてないよ」


吉川 「でも、俺は言ったね『どうして来たんだ? トレバー』って」


藤村 「突然出てこられたから全然感情移入ができない」


吉川 「トレバーは答えたよ『まだ、お前から、ポーカーの負け分を貰ってないんだ』ってね」


藤村 「ちょっとかっこいいな」


吉川 「しかし二人では分が悪い。その時に、また影が」


藤村 「今度は何軍曹だ」


吉川 「お! お前は!? ジャスミン伍長!」


藤村 「それも初登場だな」


吉川 「我が分隊のマドンナ。戦場をかける姿は、まるで可憐な花を思わせる。シモネタにもジョークで答える気性の強い女だ。ネズミが怖いのがたまにキズ」


藤村 「たまにキズが多いな」


吉川 「何で来たんだ! ジャスミン!」


藤村 「ジャスミンにも感情移入できない」


吉川 「あなた達ベイビーには、保護者が必要だからよ」


藤村 「ジャスミンかっこいい」


吉川 「そして俺たちは、三人で敵陣を突っ切ったさ。俺たちのチームワークは最高だった」


藤村 「都合のいい展開になってきた」


吉川 「しかしそこに現れた一人の男」


藤村 「また新しい登場人物だ」


吉川 「お、お前は!?」


藤村 「誰だ」


吉川 「ビリー少尉!」


藤村 「誰だよ。ビリー少尉」


吉川 「まかさ、また敵味方に別れて出会うとは皮肉なもんだな」


藤村 「もう説明すらなしか」


吉川 「ビリー少尉の説明いる?」


藤村 「できれば……」


吉川 「ビリー少尉。お前の先輩だ」


藤村 「先輩すげー!」



暗転

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