パン屋

パン屋 「いらっしゃいませー」


吉川  「こんなところにパン屋、新しくできたんですね」


パン屋 「はい。地域の皆さんに本当の美味しいパンをお届けしたくて」


吉川  「そうなんですね」


パン屋 「すべて天然酵母で作ってます」


吉川  「あー、こだわってるんだ」


パン屋 「小麦は国産小麦を自家製粉してるので安全です」


吉川  「そういうの大事ですよね」


パン屋 「色々なお客様に喜んでもらえるようアレルギーにも注意してます」


吉川  「それは嬉しいですねー」


パン屋 「減塩のパンもあるので気になる方はお試しいただけたらと」


吉川  「最近そういうの大切ですからね」


パン屋 「他にも材料はオーガニックなものしか使ってません」


吉川  「なるほど」


パン屋 「季節によってはお出しできない種類もあるんです。無理をすればできないこともないんですが、やはりお客様のことを考えると一番美味しい状態で提供したい」


吉川  「わかります」


パン屋 「もちろん防腐剤等は一切使用してません」


吉川  「どれも美味しそうだ」


パン屋 「あ、気づきました? そのトング」


吉川  「え? これ?」


パン屋 「特別にカチカチする時に素敵な音がでるよう特注したんです」


吉川  「ここもこだわってるんだ!? カチカチに? すごいな。こだわりが半端ないな」


パン屋 「あ、ゴキブリだ! 殺虫剤、殺虫剤……」


吉川  「えー。ゴキブリ出るんだ」


パン屋 「プシュー!」


吉川  「思いっきりかけるじゃん」


パン屋 「プシューーーー!」


吉川  「一本まるまる使う勢いで噴射するじゃん」


パン屋 「ちくしょう、逃したか」


吉川  「もちろんその殺虫剤もこだわってるやつなんですよね?」


パン屋 「これ? これは一番死ぬやつ」


吉川  「一番死ぬやつ! その強めのをふんだんに!」


パン屋 「あ、バイトからラインだ。なに? 体調不良で休みたい? バカ言うな。這ってでも来い。うちのバックに誰が付いてるかわかってるんだろうな」


吉川  「えー。今どき問題のあるスタンスの職場」


ウーバ 「こんにちは、ウーバーイーツです。商品を引き取りに来ました」


パン屋 「あ、ウーバー? これね。ほら、持っていって」


ウーバ 「え? これ、まんまですか?」


パン屋 「当たり前だろ。パン屋なんだから」


吉川  「むき身で!? パンをむき身で渡すの? イエス・キリストの時代?」


ウーバ 「いやぁ、でもこれお客さんに文句言われちゃうんじゃ……」


パン屋 「うるせー。とっとと行け! この野郎、塩撒いてやる!」


吉川  「塩を! 旭日松くらい撒くじゃん。減塩にこだわったパンが巻沿いになってる」


パン屋 「お客さん。買わないんですか? カチカチ」


吉川  「いえ、あの。ちょっと……」


パン屋 「カチカチカチカチカチカチ」


吉川  「トングの音が飛び抜けていいじゃん。こだわった音色で威嚇しないでよ」


パン屋 「カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ」


吉川  「じゃ、この焼きそばパンを一つ」


パン屋 「ありがとうございまーす」



暗転

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