甲子園
吉川 「ナイスピーッ!」
藤村 「ふぅ。この調子なら甲子園もバッチリだな」
吉川 「まったく、気が早いぜ。でもまぁ、お前とバッテリーを組んで三年目か」
藤村 「なぁ、吉川?」
吉川 「なんだ?」
藤村 「俺、お前に言わなきゃいけないことがあるんだ」
吉川 「なんだよ。改まって」
藤村 「実はな……俺……お前のことが、嫌いなんだよ」
吉川 「え……」
藤村 「すごい嫌いなの。大っ嫌い」
吉川 「いや、あの……三年間もバッテリーを組んできて」
藤村 「地獄のような三年間だったよ」
吉川 「そんな」
藤村 「お前のこと、今日から、ゴキブリ野郎って呼んでもいいか?」
吉川 「嫌だよ! なにが嫌いなんだよ。理由をいえよ」
藤村 「理由とか特にない。なんか生理的に嫌」
吉川 「うわー。出た出た。生理的。もう絶望的じゃん」
藤村 「うん」
吉川 「もっと具体的になんかないの?」
藤村 「そうだなぁ。なんか、息が臭そうなところ」
吉川 「臭そうってなんだよ! イメージじゃんか。それじゃ、治しようがないよ」
藤村 「うん。不思議と本当はそれほど臭くないから余計腹が立つ」
吉川 「そんなところで腹を立てられても」
藤村 「息臭そ顔」
吉川 「そんなひどい形容されたの初めてだよ」
藤村 「ノロマそう顔だし」
吉川 「なんだよそれ! ひでーな。ノロマそうな顔ってどんなの!」
藤村 「いや、雰囲気ね。意外と素早いのがまたイラつく」
吉川 「素早い方がいいだろ。キャッチャーなんだから!」
藤村 「でもまぁ、甲子園に行く前にスッキリしてよかったよ」
吉川 「いや、俺は全然すっきりしてないんだけど」
藤村 「甲子園では、憎しみを込めた球をお前に投げる」
吉川 「そ、そう」
藤村 「打たれたらお前のせいな」
吉川 「ええー。責任までこっち持ち? ひどく割が合わない」
藤村 「いいんだぜ? 替えのキャッチャーなら他にもいるんだから」
吉川 「うわぁ、そういうこと言うか」
藤村 「俺が監督に直訴してやる。お前とは組めないって」
吉川 「ひどいよ! 俺、可哀想すぎるよ」
藤村 「まぁ、呪うなら自分の生まれを呪うんだな」
吉川 「生まれのレベルでダメだったのか。気がつかなかったよ」
藤村 「じゃぁ、吉川。向こうに行っても、それなりに頑張れよ」
吉川 「え? 追放? 俺、甲子園行けないの?」
藤村 「あー、その悲しそうな顔! 辛い!」
吉川 「辛いじゃないよ! だったら初めから追放しないでくれよ」
藤村 「でもお前だって目指してたんだろ?」
吉川 「甲子園でしょ? 目指してたよ! だからこんなに一生懸命頑張ってきたんじゃないか」
藤村 「ドナドナド~ナ~ド~ナ~♪」
吉川 「ドナドナまで歌われた。そんなに一緒に行くのがやなのかよ! 俺はどこに行けばいいんだよぉ!」
藤村 「子牛園」
吉川 「どこそれ!?」
暗転
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます