三十路

吉川 「ついに三十路になりましたよ」


藤村 「ほんと? なめていい?」


吉川 「いや、なんでだよ。なんで突然なめられなきゃいけないんだ。妖怪か」


藤村 「ちょっとだけ。ペロッと一なめ」


吉川 「やだよ。気持ち悪いなぁ」


藤村 「隙あり! ペロッ!」


吉川 「うわ! 汚ね!」


藤村 「うーん……いや、別に汗っていうか、塩味だな」


吉川 「なにがだよ」


藤村 「味噌味になったっていうから……」


吉川 「三十路だよ! 30歳だよ」


藤村 「あー。そっちか。俺はてっきり、じっくりコトコト煮込んだ結果、味噌味になったのかと」


吉川 「じっくりコトコト煮込まないよ! なんで突然、味噌味にメタモルフォーゼしなきゃいけないんだ」


藤村 「俺も不思議なこと言うなぁ。と思ったけど、半信半疑でなめてみた」


吉川 「半信半疑でなめないでくれ。気持ち悪い」


藤村 「しかし、ついにお前も30かぁ」


吉川 「30だよ。なってみると、これが驚いたことに、なんの感慨もないね」


藤村 「そりゃ、ないだろうな。別にドラクエみたいにレベルアップするわけじゃないし」


吉川 「それだったらいいんだけどね。レベルが上がった。力が3アップしたとか」


藤村 「新しい呪文を覚えたりね」


吉川 「ベホイミとか」


藤村 「ベホイミ覚えたいなぁ。なんだったらホイミでもいい」


吉川 「ホイミ覚えたいね」


藤村 「やっぱり、この年になると攻撃魔法よりは回復魔法だよなぁ」


吉川 「この年になって回復魔法とか真顔で言っていることの方が問題だけどな」


藤村 「だって、火を出す魔法くらいならライターでできるでしょ」


吉川 「そんなこと言ったら、ホイミだって湿布薬とかでなんとかなるんじゃない?」


藤村 「薬草か。なんか薬草って買う気しなくない?」


吉川 「まぁ、あんまり買わないな」


藤村 「それに年取ってもあんまりアップするステータスなんてないよ」


吉川 「そうだね。どっちかというと身体は弱っていく一方だからな」


藤村 「この年になって素早さはアップしないよなぁ」


吉川 「そんなこと言ってたら、おじいちゃんはみんな素早くなっちゃうよ」


藤村 「やだなぁー。素早いじじい。風のように駆けるじいさん」


吉川 「素早いおばあちゃんの二回攻撃!」


藤村 「おばあちゃんは力も相当レベルアップしてるからね」


吉川 「レベル99とか、めちゃめちゃ強いよ」


藤村 「あー、俺もレベルアップしてぇ」


吉川 「でも、現実は、ただ年をとるだけだよ」


藤村 「たらららったったった~♪」


吉川 「あ! レベルアップした」


藤村 「藤村は三十路になった」


吉川 「年取っただけかよ」


藤村 「腰に痛みを覚えた」


吉川 「そんなもんだよなぁ」



暗転

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