雨男

吉川 「いや、そんなの迷信でしょ?」


雨男 「それがそうでもないんですよ」


吉川 「だって、一年の三分の一は雨なわけですよ?」


雨男 「そうですね」


吉川 「それが、全部あなたが関係してると?」


雨男 「いや、私はほら、関東担当だから」


吉川 「あー、担当区分があるんだ。そういうシステムなんだ?」


雨男 「そりゃ、いくらなんでも全国津々浦々の雨までは知りませんよ」


吉川 「でも、そんなの気のせいでしょ?」


雨男 「なにを根拠にそんなことを!」


吉川 「だって……科学的じゃないじゃない」


雨男 「出た出た。科学信者だよ。なんでも科学のせいだと思ってる」


吉川 「そんな」


雨男 「UFOもアレでしょ? プラズマとかそんなのだと思ってるんでしょ?」


吉川 「別にそこまでは思ってないけど」


雨男 「科学なんてね、迷信ですよ。迷信」


吉川 「えー。迷信なの?」


雨男 「じゃ、何で火が燃えるのか答えられます?」


吉川 「それは……可燃物が、酸素と、なんかして、熱い感じになって……」


雨男 「全然ダメだ。もう科学以下だ! 火なんてね、情熱で燃やすんですよ」


吉川 「えー」


雨男 「そして、その火を消すのが、私、雨男の出番だホイ!」


吉川 「ホイって、急にどうした? 今までそんなキャラじゃなかったのに」


雨男 「せめて明るく振る舞おうと。結局、不人気者なんですけどね」


吉川 「ちょっとすねちゃってる?」


雨男 「だってさー。晴れ男の方がモテるんだもん」


吉川 「そりゃ、どっちかと言えば」


雨男 「どうせ、私がいたら洗濯物も乾きませんよ。カビだって生えますよ」


吉川 「そんな捨て鉢にならないで」


雨男 「でもなー! 俺はこう見えても、お百姓さん達のアイドルなんだよ!」


吉川 「地味な客層を狙ったアイドルだな」


雨男 「雨が少ないと、節水節水言うくせに」


吉川 「まぁ、そうだね」


雨男 「こんな私ですけどね、砂漠とか行けば、もう神扱いですよ」


吉川 「そうだろうねぇ」


雨男 「行きませんけどね。暑いから」


吉川 「行ってあげればいいのに」


雨男 「私はほら、地味に遠足の日とか、運動会の日を邪魔するのが仕事だから」


吉川 「やな仕事だなー」


雨男 「そんな程度ですよ、しょせん」


吉川 「そんなこと言わずに」


雨男 「でもね、あるんですよ! 年に一回の大イベントが!」


吉川 「なに?」


雨男 「THE 梅雨! 来年も降らせまくりますぜー」


吉川 「お手柔らかにしていただきたいね」


雨男 「晴れ男には負けませんぞー」


吉川 「や、そんなに頑張らなくても」


雨男 「なにいってるんですか! 年に一回の見せ場ですよ?」


吉川 「見せちゃうか」


雨男 「だいたいねぇ、晴れ男はなんかモテてるけど、アイツなんか晴れさせるしか能がないんですよ?」


吉川 「それはあなたも」


雨男 「私は、霧雨とか五月雨とか豪雨とか色々オプションありますもん」


吉川 「オプションなんだ」


雨男 「今年の抱かれたい男No,1は雨男で決まりですよ!」


吉川 「なんかジトジトしてそうでやだなぁ」


雨男 「ベストジーニストも狙ってる。虹だけに!」


吉川 「だけにって言う意味がわからないけど」


雨男 「雨降って地固まる!」


吉川 「頑張って固めてください」


雨男 「実際、晴れ男なんかより、いい男なんですよ?」


吉川 「そうなんだ」


雨男 「水も滴るいい男ですからね」


吉川 「今のは、水に流すことにします」



暗転

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