夢
良子 「あのね、聞いて聞いて。昨日ね、すごい夢を見たんだよ」
吉川 「へぇ、どんな?」
良子 「でも夢オチだからなぁ」
吉川 「いや、夢って言うのは、夢オチでしょ」
良子 「巨大な酢コンブが町を襲うの」
吉川 「へぇ……。それは、ちょっと病んでるね」
良子 「でね、超戦隊ミラクルファイバーが助けにきてくれるんだけど」
吉川 「いや、ミラクルファイバーがって言われても全然ピンと来ない」
良子 「超戦隊ミラクルファイバーは、私の夢のレギュラーだよ」
吉川 「そんなのレギュラーにしてるのか」
良子 「超戦隊ミラクルファイバーはすごいんだよ。匂いとか」
吉川 「匂いかよ。もっと他にアピールポイントがあるだろ」
良子 「いや、匂い以外は普通の人と変わらない」
吉川 「全然、超戦隊じゃない」
良子 「うん。まぁ、一人だしね」
吉川 「戦隊でもない」
良子 「まぁ、とにかく、すごい色々な匂いの混じった夢だったよ」
吉川 「夢の感想が匂いだけか」
良子 「変な匂いと言えば、変なパーマのおばさんがいるよ!」
吉川 「あんまり見るなよ」
良子 「あれ、野性かな?」
吉川 「なんだ、野生のおばさんて。どういう環境で育ったら野性になるんだ」
良子 「触って威嚇したら野性だよ」
吉川 「威嚇はしないだろうけど、むやみやたらと人を触っちゃダメだろ」
良子 「口笛に反応したら野性じゃないね。養殖」
吉川 「おばさんを養殖してるところなどない!」
良子 「吉川くんは、すぐ私の言うことを否定するよね? 私のこと嫌い?」
吉川 「嫌いじゃないけど、間違ってることは否定する」
良子 「じゃ、好き?」
吉川 「う、うん」
良子 「日本猿よりも好き?」
吉川 「いや、別に日本猿はそんなに好きじゃないから」
良子 「私も吉川くんのことオランウータンより好きだよ」
吉川 「ウータンと比べられても」
良子 「あー、でも、オランウータンも捨て難いなぁ」
吉川 「そ、そう」
良子 「そういえば、吉川くん! 一大事だよ」
吉川 「なにが一大事?」
良子 「あのね、私ね、告られちゃった☆」
吉川 「え……。一体誰から?」
良子 「うん。友達から」
吉川 「友達からかぁ。で、どうするの?」
良子 「どうって、戦うよ!」
吉川 「え……なんで?」
良子 「私はやってません!」
吉川 「……なにを?」
良子 「私はセクシャハラなんてしてません!」
吉川 「なんだ、セクシャハラって」
良子 「吉川くんは、遅れてるなぁ。セクシャルハラスメントだよ。性的いやがらせ」
吉川 「セクハラだろ。そんな変な略しかた聞いたことない」
良子 「セクシャハラの方がかっこいいじゃん。インドっぽくて」
吉川 「インドっぽいのがかっこいいかは別として、全然話が見えてこない」
良子 「なんで? 告られたんだよ!」
吉川 「告られたんでしょ? 友達から」
良子 「そうだよ! あいつめー! 許さん」
吉川 「そこが、見えてこない。なんで?」
良子 「だって、許せないじゃん! 私のことを密告するなんて」
吉川 「密告かよ! 告るって、密告!? セクシャハラで?」
良子 「そうだよ。告られたからには、戦わなければ」
吉川 「密告のことを告られるって言わない。普通は告白されることを言うんだ」
良子 「でも、本当にしてないんだよー。私は無実なんだよー」
吉川 「わかったよ。良子は無実なんだね」
良子 「そうなの。ちょっとお尻をペロンと一撫でしただけなの」
吉川 「有罪じゃん! ガチンコの有罪じゃんか」
良子 「そうなの?」
吉川 「そうだよ! そういうのをセクハラっていうんだ」
良子 「違うよ。セクシャハラだよ」
吉川 「違くない。で、どうするの?」
良子 「戦うさ! 私には超戦隊ミラクルファイバーがついている」
吉川 「そんな、いい匂いの人を味方につけても何の役にも立たない」
良子 「超戦隊ミラクルファイバーはいい匂いじゃないよ! どっちかというと臭いよ!」
吉川 「臭いのかよ。どっちでもいいよ、そんなの」
良子 「ねぇ。どうしたらいい?」
吉川 「それは、ゴメンと謝るのがいいんじゃないかな」
良子 「そんなことしたら、相手がつけあがるじゃんかー」
吉川 「つけあがるとかの問題じゃなくて、相手が不快な気持ちになったんだから、謝るのが筋だよ」
良子 「それが筋なのか。じゃ、謝ろう」
吉川 「うん。そうしなさい」
良子 「謝ってダメだったらどうする?」
吉川 「もっと謝る」
良子 「それでもダメだったら?」
吉川 「その時は、その時だよ」
良子 「吉川くんが代わりに捕まってくれる?」
吉川 「なんでだよ! やだよ、そんなセクハラでなんて」
良子 「セクシャハラ!」
吉川 「どっちでもいいよ! やだよ!」
良子 「ケチー! 吉川くんのケチンボ」
吉川 「ケチとかの問題じゃないだろ」
良子 「愛が足りないわ」
吉川 「う……」
良子 「良子を愛してないのね。そうなのね。オヨヨヨ……」
吉川 「オヨヨヨ泣くなよ」
良子 「でもまぁ、きっと許してくれるよ」
吉川 「そうだね」
良子 「もう二度としないようにね!」
吉川 「はい。って、なんで俺が謝ってるの?」
良子 「ついでだよ」
吉川 「そんなこと、ついでにしないでくれ」
暗転
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