不動産

藤村 「いらっしゃいませー」


吉川 「すみません。部屋を探してるんですけど」


藤村 「ははは、いやだなぁ。お客さん、ご冗談を。ここは部屋ですよ」


吉川 「いや、そういう意味で探してるんじゃなくて、ここ不動産屋でしょ?」


藤村 「はい。不動産屋の一室です」


吉川 「で、部屋を探してるんです」


藤村 「だから、ここが、お探しの部屋です。よかったですねー、みつかって」


吉川 「いや、そうじゃなくて、自分の部屋を探してるんです」


藤村 「そんな! 勝手にここに住まれちゃ困りますよ」


吉川 「だから、勝手に住みませんよ」


藤村 「まず、契約をしていただかないと」


吉川 「ここじゃなくて! 私の部屋を紹介してください」


藤村 「あぁ、それならそうと、もっと早く言ってくれれば」


吉川 「そこまで言わなくても伝わるでしょ。普通」


藤村 「で、どの辺りでお探しですか?」


吉川 「えーと、三茶の辺りで……」


藤村 「三茶ですか。いい所ですねー。私もね、こう見えて長男なんですよ」


吉川 「え? それがなにか?」


藤村 「子供のころは神童なんて言われちゃって」


吉川 「それが、三茶と何の関係が?」


藤村 「関係なんてありませんよ。軽い自己紹介です」


吉川 「自己紹介かよ。微妙なタイミングでしないで下さいよ」


藤村 「で、コレの方なんですが……」


吉川 「家賃ね。なんか、いやらしい言い方しないで下さいよ」


藤村 「どの程度をご希望ですか?」


吉川 「えーと、7万から8万くらいで」


藤村 「と言いますと……ワンルームか、ワンマンになりますね」


吉川 「なんですか、ワンマンて」


藤村 「ワンマン社長です。もう、部下の言うことなんか全然聞かない」


吉川 「いや、社長は別に求めてないんで」


藤村 「じゃ、ワンルームですと、こういったモノがありますが」


吉川 「あ、これいいですね」


藤村 「ただねぇ……オバケが」


吉川 「オバケがでるのかよ! やだよ、そんな家」


藤村 「いや、オバケはでないんですけど、オバケが大家なんですよ」


吉川 「もっとやだよ! そんな家、契約するなよ」


藤村 「なにか、ご希望あります? ペット可とか、トイレ不可とか」


吉川 「いや、トイレは普通、可でしょ。不可にしちゃってどうするんだ」


藤村 「たまにいるんですよ。トイレは断じて許さん! みたいなタイプの方が」


吉川 「いないよ。どういう人間だ」


藤村 「これなんかねぇ、いいと思うんですけど、駅からちょっと遠いんですよ」


吉川 「どのくらいなんですか?」


藤村 「2光年」


吉川 「遠いなぁ……もう、宇宙だもん」


藤村 「でも、間取りは最高ですよ」


吉川 「でも、宇宙だもん」


藤村 「宇宙系はダメですか?」


吉川 「普通に考えてダメでしょ」


藤村 「じゃ、ほとんどダメだなぁ」


吉川 「なんで、宇宙ばっかり豊富なんだよ」


藤村 「こちらの物件はいかがでしょ? 駅から5分で、コンビにも近いですよ」


吉川 「へぇ、便利そうだ」


藤村 「便利ですよ。玄関でたらすぐレジ」


吉川 「コンビニの中じゃん。やだよそんなの」


藤村 「ある意味最高の立地ですね」


吉川 「最低だよ。もっと普通のないの?」


藤村 「こちらどうでしょ? 2DKで、駅近で、あーでも、デブ不可だ」


吉川 「なんだ、その不可は。別にデブなんて飼わないよ」


藤村 「え? 飼わないんですか? 今、流行のデブ」


吉川 「そんなもん流行るか」


藤村 「アロマ効果があるという」


吉川 「ないよ! でも、その物件いいですね」


藤村 「いいですよ。南向きだし、北は剥き出し」


吉川 「剥き出しかよ。やだよ。剥き出しの家なんて」


藤村 「あー、壁はある派?」


吉川 「ないと困る」


藤村 「じゃぁ、これだ。1DKですけど、なんと壁がついてます」


吉川 「いや、それは普通だろ」


藤村 「お客さん、結構好みがうるさいですね」


吉川 「普通ですよ! 自分の部屋ですよ」


藤村 「でも、お客さんほど好みが激しい方は初めてですよ」


吉川 「なんで? みんな、壁とかなくて平気なの?」


藤村 「別に住むわけじゃないんだから、そういうのはOKでしょ」


吉川 「いやいや、住みますよ! 住みたいですよ」


藤村 「え!? 住むの? 話が違うじゃん」


吉川 「なんで!? 不動産屋でしょ?」


藤村 「だって、お客さん、最初にすみません。て」



暗転

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