仏作って魂入れず

吉川 「なぜです!? 師匠!」


藤村 「わからんか、吉川」


吉川 「私の彫った仏像は、芸術的にも相当の価値があるはずです」


藤村 「お前の仏像には心が入ってないのだ!」


吉川 「こ、心!?」


藤村 「コロコロコミックのことじゃないぞ」


吉川 「いや、それはわかってます」


藤村 「仏彫って魂入れず。確かにお前の仏像は芸術的価値があるかもしれない。その上セクシーだ。むしろダイナマイツだ」


吉川 「いや、ダイナマイツじゃないと思います」


藤村 「わしなんか、ちょっとムラムラしちゃうもの」


吉川 「煩悩全開じゃないか」


藤村 「しかし、心がない。そんな仏は仏じゃない。フランスでもない!」


吉川 「いや、はじめからフランスじゃないです」


藤村 「本場のエスプリを理解してないからそういうことになるんだ」


吉川 「え? フランスなの? フランス関係で話を進める方針になっちゃったの?」


藤村 「お前は、仏師でもなければ、パリジェンヌでもない!」


吉川 「まぁ、パリジェンヌではないことに関しては異存はありませんが」


藤村 「セボーン?」


吉川 「なんですか、セボーンて、ちょっとフランス語っぽいけど」


藤村 「おいしいと言う意味だ」


吉川 「余計意味がわからないよ」


藤村 「それだけ、お前の仏像がダメだと言うことだ」


吉川 「どれだけなのか、まったくピンとこない」


藤村 「我々は仏を彫ることによって自分を見つめなおすのだよ」


吉川 「確かに……私は、いい彫刻を彫ることに執心しすぎていたのかもしれません」


藤村 「そうだ。それではフランス人の心を動かすことはできない」


吉川 「別にフランス人は仏教じゃないんじゃ……」


藤村 「フランスパンをなめるな!」


吉川 「別にパンなんかなめてませんよ」


藤村 「フランスパンをなめると、ごわごわしてる」


吉川 「本当になめちゃうのか」


藤村 「まずは、フランス人になりきって魂を入れることだ」


吉川 「フランス人になる工程ははぶいてもいいんじゃ」


藤村 「ノミに頼るな。心で彫れシルブプレ」


吉川 「心って言われても……」


藤村 「仏だけに、ノミを振れんち」



暗転

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