死後の世界

吉川 「なぁ、ちょっといい?」


藤村 「なんだよ! 俺、今、うんこ漏れそうなときなんだから」


吉川 「我慢しろよ。それくらい」


藤村 「便秘は身体に悪いんだぞ」


吉川 「そうかも知れないけど」


藤村 「身体に気を使わないと長生きできないぜ?」


吉川 「そうそう、長生きと言えばさ……人って死んだらどうなると思う?」


藤村 「また、しょうもなく壮大なこと考えちゃってるなぁ」


吉川 「だって、考えるよ。生きてるんだもん」


藤村 「まぁ、死というものを考えるのは生きているものの業みたいなもんだからな」


吉川 「死後の世界ってあるのかな?」


藤村 「まずさ、死の概念を考えなきゃいけないんだよ」


吉川 「死は死でしょ?」


藤村 「存在の価値からすると、生きていることは有、死んでいることは無とされてるよね?」


吉川 「そうだね」


藤村 「でも、死後の世界っていうのはさ、有の反対なんだよ」


吉川 「有の反対は無じゃないの?」


藤村 「違うね。有の反対は反有。つまり、1の反対は0じゃなくて-1なんだよ」


吉川 「なるほど。言われてみればそうだね」


藤村 「つまり死後の世界は、生きている反対の世界で生きている。-の現実なんだよ」


吉川 「そうかぁ」


藤村 「でも実際問題、死と言うのは無とされているでしょ? 生物学的に見ても」


吉川 「肉体は朽ち果てて無くなってしまうからね」


藤村 「だから、なくなった肉体を再構築して-の肉体を作り出して、そして生きるんだよ」


吉川 「難しくなってきたな」


藤村 「俺も難しすぎて、うんこ漏れそうになってきた」


吉川 「もらすなよ!」


藤村 「もらすよ! しょうがないだろ」


吉川 「逆ギレかよ。まぁ、しょうがないものはしょうがない」


藤村 「だから魂というものが移行してそのまま死後の世界に行く、と言う並列的な考え方はおかしいと思うんだ」


吉川 「どういうこと?」


藤村 「つまり一度、全てなくなる0を通過して-1になるんだよ」


吉川 「そうかぁ。じゃ結局、死後の世界はわからないってこと?」


藤村 「全てを無にする0を通過しちゃうからね。だから行き来するということは不可能だと思う」


吉川 「そっかぁ、あーなんか、色々考えたらお腹空いてきちゃった」


藤村 「俺はもうだめだ。うんこ漏れる」


吉川 「わー」


藤村 「あ、漏れちゃった……」


吉川 「しょうがないなぁ。俺もお腹空いたから授乳してもらおう」


藤村 「おぎゃー!」


吉川 「ばぶぅー!」



暗転

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