携帯ショップ

藤村 「いらっしゃいませー」


吉川 「すみません、スマホを見せてもらいたいんですけど」


藤村 「それはちょうど良かった。うちはこう見えても携帯ショップなんですよ」


吉川 「はぁ、だから来たんですけど」


藤村 「お客さん、お目が高いですねー」


吉川 「まだお目を披露した覚えはないんですが」


藤村 「新規ですか? 機種変更ですか? それともおまかせで?」


吉川 「いや、おまかせってなんですか?」


藤村 「私の独断と偏見で色々用意しますよー。もちろん違法ですけど」


吉川 「違法じゃダメじゃないですか! 機種変更でお願いします」


藤村 「違法で? 合法で?」


吉川 「いやいや、普通に合法でお願いしますよ」


藤村 「店長! 機種変更入りまーす」


吉川 「いや、いちいちコールしなくても」


藤村 「どんな機種がいいですかねー、うちはこう見えても品揃えだけはいいと評判なんですよ。茨城で」


吉川 「なんで茨城で評判なんだ。マギー司郎の手品みたいだな」


藤村 「どんなのが好みですかね? ぬちょっとしたやつ? それともじめっとしたやつ?」


吉川 「え……」


藤村 「今、流行はぬちょっとしたタイプですね。これなんかそうですけど」


吉川 「うわぁ。なんだこれ、ぬちょっとしてる」


藤村 「ね? 手に正体不明の粘液がつくタイプなんですよ」


吉川 「そんなのいりませんよ! なんだ、ぬちょっとしたタイプって」


藤村 「あー、あれですか? 手触りはこだわる派?」


吉川 「いや、こだわるというか、普通のやつで」


藤村 「これなんかねー。ものすごい手触りがいいんですよ」


吉川 「あっ! 本当だ」


藤村 「人間工学に基づいてつくられているんですよ。すごいしっくりくるでしょ?」


吉川 「うわぁ。本当にしっくりくるな。これ、意外とすごいですね」


藤村 「でしょー。ただ、通話口からものすごい異臭がするんですけど、それが気にならない方ならオススメですよー」


吉川 「うわっ! くさっ!? なんだこれ? すごい臭い」


藤村 「ねー? 臭いでしょー。まぁ、マニアの間ではこの臭さがたまらないと言う方も多いと聞きますよ。茨城で」


吉川 「何で臭いんだよ! そしてなんで茨城で評判なんだ! こんなの臭くて使えませんよ」


藤村 「あ、お客様、臭くない派?」


吉川 「臭い派など存在しない!」


藤村 「だったらこれだ。臭くないことにかけては他の製品の群を抜いてますね」


吉川 「他のは全部臭いのかよ」


藤村 「これね、なんとテレビが見れるんですよ」


吉川 「あー。CMでやってるやつ」


藤村 「そうそう。しかもCMでやってるやつよりすごいですよ。なんせ大画面。52インチだから」


吉川 「でかっ! 携帯できないよ」


藤村 「大丈夫。薄型テレビだから」


吉川 「そういう問題じゃない。っていうか、これはすでにスマホじゃなくてテレビじゃないか」


藤村 「これを持ってたら茨城でみんな振り向きますよ」


吉川 「茨城じゃなくても、こんな大画面テレビ持ってたら誰しも振り向くよ」


藤村 「カメラつきのすごいやつもありますよ。超望遠カメラ。木星まで撮れちゃう」


吉川 「だから携帯できないって。それはカメラだ!」


藤村 「お客さん、意外と好みがうるさいですねぇ」


吉川 「普通だ! 普通のスマホを見せてくれ」


藤村 「あ、普通派? カジュアル派じゃなくて?」


吉川 「カジュアルでもなんでもいいから、普通のスマホを見せろ」


藤村 「あー、普通のだと、こっちのになっちゃいますねー」


吉川 「なんだ。普通のあるじゃないか」


藤村 「えぇ。普通ですよー」


吉川 「こういう普通のやつが欲しかったんだよ。なんだ、じゃ、これで」


藤村 「え? いいんですか? この普通のやつで」


吉川 「いいんだよ。普通のやつで」


藤村 「でも、これ、通話できませんよ?」


吉川 「どんなスマホだよ!」


藤村 「不通ですから」



暗転

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