免許

吉川 「免許をとろうと思うんだけど」


藤村 「フグ調理師の?」


吉川 「なんでだよ。不自然だろ、何で突然フグ調理に目覚めなきゃいけないんだ」


藤村 「一枚持ってると、色々と便利だぞ。フグを捌く時とか、フグにさばかれたりする時とか」


吉川 「フグだけじゃん。なんださばかれる時って、何の因果でフグにさばかれなきゃいけないんだ」


藤村 「フグ裁判の被告になった時」


吉川 「どんなときだ」


藤村 「判決を言い渡すフグ! 有罪フグ!」


吉川 「そんなフグはいない」


藤村 「まぁ、裁くのが得意なのはサバだしな」


吉川 「いやいや、別にそんな上手いこと言った風なこと言わなくていいから」


藤村 「それで、免許を取るんだって?」


吉川 「うん。思い立ってね」


藤村 「しかし、免許は難しいぞぉ。適正試験とかあるからな」


吉川 「そんなのがあるんだ」


藤村 「例えば……スライムベスが現れた。たたかう? にげる?」


吉川 「え……なんでベスが」


藤村 「草原とか走ってると比較的頻繁に会う」


吉川 「そうなの!? まだ実物をお目にかかったことはないんだけど」


藤村 「絶滅危惧種だからね」


吉川 「じゃ、たたかう」


藤村 「吉川のこうげき、スライムベスに2ポイントのダメージを与えた」


吉川 「弱い! 俺は車に乗ってるんじゃなかったのか?」


藤村 「スライムベスのこうげき、吉川は百億万ポイントのダメージを受けた。吉川は死んでしまった」


吉川 「強すぎだよ、ベス」


藤村 「おお、死んでしまうとはなにごとだ」


吉川 「こっちこそなにごとだ」


藤村 「まぁ、ベスにも勝てないようじゃ免許はあきらめた方がいい」


吉川 「そんなのお前のさじ加減一つじゃないか」


藤村 「じゃ、こういう問題。横断歩道におじいさんがゆっくりと渡っています。あなたならどう轢きますか?」


吉川 「え? もう轢くの前提なの?」


藤村 「おじいさんだからね」


吉川 「いや、おじいさんとかそういう問題じゃないでしょ」


藤村 「絶滅危惧種じゃないし」


吉川 「お前はおじいさんに失礼だな」


藤村 「さぁ、どう轢きますか?」


吉川 「う……なるべく痛みを与えないように……」


藤村 「吉川はおじいさんを見事に轢いた。そして捕まった」


吉川 「やっぱり捕まるんじゃん」


藤村 「天網恢恢疎にして漏らさず」


吉川 「轢かないよ! やっぱり轢かない」


藤村 「人生にリセットボタンはないんだよ……」


吉川 「なに、教訓みたいに言っちゃってるのさ。自分で轢かせたくせに」


藤村 「それではあなたはとても急いでいます。目の前の信号は赤ですが人っ子一人いません。さぁ、どうする?」


吉川 「信号を守ります」


藤村 「吉川は信号を守っている。スライムベスのこうげき、吉川は二百億万ポイントのダメージを受けた」


吉川 「またベスかよ! ベスはもういいよ」


藤村 「信号なんか守ってるからだ」


吉川 「どんな適正試験だよ。もっと普通のやつ」


藤村 「あなたはとてもとても急いでいます。その理由は?」


吉川 「え……」


藤村 「急いでる理由」


吉川 「か、会社に遅刻しそうだから」


藤村 「会社に遅刻しそうだからを選んだあなた。今日の運勢は末吉、ラッキー地蔵は笠地蔵」


吉川 「占いかよ。なんだラッキー地蔵って」


藤村 「ドライブにきた吉川くん、そこに突然森の動物達が話し掛けてきました。さて、最初に話し掛けてきたのはどんな動物?」


吉川 「もう心理テストみたいになってるじゃんか」


藤村 「リス、ワニ、トラ、ゾウ」


吉川 「ワニって森の動物じゃないし……じゃぁ、トラ」


藤村 「トラはなんと言ってきましたか?」


吉川 「げ、元気? って」


藤村 「動物が話し掛けてくるように思えるとは、あなたはだいぶお疲れのようですね」


吉川 「お前が言ったんじゃないか!」


藤村 「トラとディスカッションしちゃダメでしょ。やばい人だよ」


吉川 「もっと普通の適正試験はないのか?」


藤村 「あなたは車に乗ってきたのに、飲み会でお酒をすすめられました。さぁどうする」


吉川 「飲みません」


藤村 「なんだと!? 俺様の酒がのめないとでもいうのか!」


吉川 「いや、そういうわけじゃなくて、車だから……」


藤村 「なんだ車って! だん吉か!?」


吉川 「いや、だん吉じゃなくて、飲酒運転になっちゃうじゃないですか」


藤村 「この冒険ダン吉め! お前なんか毒に当たって死んでしまえ」


吉川 「ひどい言われようだ」


藤村 「うっ……身体に毒が! テトロドキシンが!」


吉川 「何で突然、ハプニング続出なんだ」


藤村 「やばい身体が麻痺してきた……見える……ルーベンスの絵が見える……」


吉川 「わー! 死んじゃダメだー!」


藤村 「サヨ……ナ……ラ……」


吉川 「なんてことだ。もうこんな不幸は繰り返してはならない。俺は……俺は誓う!」


藤村 「よし! 合格だ。君はフグ調理師の免許を取る資格がある」


吉川 「そんなものいらない!」


藤村 「残念だが、車の免許はとる資格がない」


吉川 「なんでだよ」


藤村 「さっきおじいさんひき殺したから」


吉川 「それは、おまえがやらせたんじゃないか」


藤村 「有罪フグ!」


吉川 「裁かれた!?」



暗転

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