白馬の王子

藤村 「白馬の王子様になりたい」


吉川 「また、急にへんてこなことを言い出したな」


藤村 「小さい頃から憧れだったんだ」


吉川 「普通、そういうものは女の子が憧れるんじゃないか?」


藤村 「女の子は白馬の王子様に迎えられることを憧れるんじゃないか。だから、こんな時代だからこそ、私は王子様にならなきゃならない」


吉川 「なにも時代のせいにしなくても」


藤村 「言いたいことも言えない世の中だぜ?」


吉川 「白馬の王子様って具体的に何すればいいんだ?」


藤村 「そりゃ、白馬に乗って通りすがるんだよ」


吉川 「通りすがるだけか。別に何もしないんだ?」


藤村 「白馬で王子である以上に何を望むんだ!」


吉川 「まぁ、たしかに白馬で王子ならすごいと思うけど」


藤村 「だろ? だから俺がなる!」


吉川 「が、がんばって」


藤村 「がんばってじゃないよ! お前も一枚かんでくれよ」


吉川 「そんなどうしようもない野望をかませないでくれ」


藤村 「まず、白馬がいるな」


吉川 「のっけから、大問題だな」


藤村 「あれだ、お前、色白だからいいんじゃない?」


吉川 「おっしゃってる意味がわかりません」


藤村 「干支なんだっけ?」


吉川 「ウサギ」


藤村 「あーウサギね。ウマとウが一緒だ。もう馬も同然」


吉川 「なにが同然なんだ。全然違うじゃないか」


藤村 「動物占いは?」


吉川 「くろひょう」


藤村 「ほら、白馬と黒豹なら、なんか白黒でめでたいじゃん」


吉川 「白黒がめでたいなんて新常識を作られても困る」


藤村 「星座は? 馬座?」


吉川 「そんな星座ないだろ。カニ座だよ」


藤村 「ウマとカニは字数が一緒だし、なんか雰囲気も似てるよね?」


吉川 「全然似てないよ! どこをどうとったらウマとカニが似てるんだ」


藤村 「どっちも食べるじゃん?」


吉川 「ものすごいアバウトなくくりだな」


藤村 「よし、お前は今日から白馬だ」


吉川 「そんな、突然人間失格の烙印を押されても……」


藤村 「いやぁ、一目合ったときから馬っぽいとは思っていたけど、まさかこれほどまでとは」


吉川 「これほどってどれほどだよ。大体馬っぽいって失敬だな」


藤村 「あとは、俺が王子になるだけだ」


吉川 「そっちの方が大問題じゃないか」


藤村 「まぁ、その点はぬかりない。俺の親父が王様になればいいんだよ」


吉川 「そうとうぬかってると思うけど」


藤村 「平気平気。俺の親父はああ見えてキャバクラが大好きなんだ」


吉川 「だからどうした」


藤村 「やるだろ? 王様ゲーム」


吉川 「ずいぶんしょぼい王様で満足しちゃうんだなぁ」


藤村 「俺の親父が王様になれば、俺は自動的に王子様だ」


吉川 「そういうゲームのシステムじゃないと思うけど」


藤村 「よし、白馬よ! 俺を乗せて走れ」


吉川 「やだよ! 白馬なんてゴメンだ」


藤村 「白馬と王子様は一心同体だ、二人三脚で頑張ろうぜ」


吉川 「そっちばっかりいい役じゃんか、何で俺が馬なんだよ!」


藤村 「俺はお前との友情にかけてるからだ!」


吉川 「こっちは友情なんてまるで感じてない」


藤村 「そんなこというなよ。お前は馬にぴったりだよ。俺が保証する」


吉川 「そんな根拠のない保証いるか!」


藤村 「根拠ならある」


吉川 「どんなの?」


藤村 「お前とは……なんとなくウマがあう」


吉川 「ヒヒーン」



暗転

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