メアド

吉川 「メールアドレスなんだけど……」


藤村 「最近あんまりやりとりしないな」


吉川 「しないよね。バーコードで登録できたりするし」


藤村 「逆に新しいかもな」


吉川 「逆にっていう発想も古い気がする」


藤村 「裏原とかじゃ、みんな使ってるよ。逆に裏原? とか」


吉川 「それは原宿だな。裏原宿っていうのも廃れてるよ」


藤村 「裏原のニューアルバム聞いた? とかな」


吉川 「もう逆にの話でもなくなってる」


藤村 「ニューアルバムの話だっけ?」


吉川 「メールアドレスの話だよ。変更したからさ」


藤村 「なんでだよ。そんな……変更されるケメアドの気にもなってみろよ」


吉川 「いや、そんな気にはなってみない」


藤村 「ひょっとして飽きたのか?」


吉川 「そうじゃなくて、迷惑メールが多いんだよ」


藤村 「あー。迷惑なアレかぁ」


吉川 「そう」


藤村 「困るよなぁ。夜中にセミヌードで街を徘徊したり」


吉川 「いや、そんな迷惑条例違反じゃないよ」


藤村 「あれか。夜中にヘアヌードで街を徘徊したり」


吉川 「ヌードの度合いじゃないから。そういう迷惑じゃなくて、母さん助けて詐欺とかのメールが」


藤村 「夜中にフルヌードで街を徘徊したら出会っちゃうやつか」


吉川 「夜中の徘徊にこだわるなぁ。そうじゃなくて、あるじゃない? 出会い系とか」


藤村 「出会わない系とかな」


吉川 「いや、出会わない系は別に構わないんだけど。勝手に出会わなきゃいい」


藤村 「俺なんかかなり出会わない系だぜ? みんな神隠しにあったのかと思ったりするもん」


吉川 「それは寂しいこと聞いちゃったなぁ」


藤村 「まぁ、慣れたけどね。出会わないことにも」


吉川 「そうか。まぁ、そういうメールが来ないアドレスに変更したい」


藤村 「ああいうのはコツがあるんだよ。例えば数字と英語を組み合わせたりな」


吉川 「一応、組み合わせているんだけど」


藤村 「豚肉と牛肉を組合わせたりな」


吉川 「いや、意味が分らないけど」


藤村 「7:3で」


吉川 「そんな秘伝のレシピっぽいもの教えてもらって悪いんだけど、メールアドレスに豚肉とかないから」


藤村 「あー、メールアドレスの話か」


吉川 「最初っからそう言ってるじゃん」


藤村 「うっかりハンバーグと間違えたよ。メールとバーグが似てるから」


吉川 「全然似てない」


藤村 「ちなみにスマホはツーカー?」


吉川 「ツーカーのスマホなんて存在しない」


藤村 「東京セルラーと二強だから」


吉川 「いつの時代だ」


藤村 「やたら長いアドレスをつけるとか」


吉川 「長いと覚えづらいじゃん」


藤村 「だから覚えやすい長いやつをつけるんだよ」


吉川 「たとえばどんな?」


藤村 「jugemujugemugokounosurikirekaijarisuigyonounnraimatufuuraimatukuuraimatukuunerutokoronisumutokoropaipopaipopaiponosyuurinngannsyuurinngannnoponnpokopiinoponnpokonaanotyoukyuumeinotyousuke@とか」


吉川 「すごい一生懸命言ってくれたところ悪いんだけどスパムとして弾かれちゃうな」


藤村 「なんだよ! 先に言ってくれよ」


吉川 「あまりに嬉しそうに言ってるもんだから止めるの悪いかなぁと思って」


藤村 「何文字くらいがいいの?」


吉川 「別に決まってないだろうけど普通は20文字以内じゃない?」


藤村 「20文字か……20文字でお前という人物を表現しなきゃいけないわけだ」


吉川 「別に表現しなくてもいいけど」


藤村 「お前は甘いもの好きだよな?」


吉川 「うん。甘いものには目がないね」


藤村 「どなたか一口でいいので甘いもの、amaimonokudasai@」


吉川 「なんで、そんなに飢えた感じになってるんだ」


藤村 「スイートなメールが沢山来るぞ」


吉川 「なんかうまいこと言った気になってるだろ」


藤村 「同じフレーズを繰り返すのとかがいいんじゃない?」


吉川 「なるほど」


藤村 「例えば、自分の好きなものとかsexsexsexsexsexsexsexsexsexsex@とか」


吉川 「そんなに好きなんだ……」


藤村 「例えばの話だよ。お前の好きなものなんだよ?」


吉川 「う~ん……しゃぶしゃぶ」


藤村 「じゃ、それでいいじゃん。打つのも楽だし」


吉川 「syabusyabusyabusyabusyabusyabu@」


藤村 「どう?」


吉川 「本当だ。打つのも楽しい」


藤村 「打つの楽だろ?」


吉川 「うん。syabusyabusyabusyabusyabusyabusyabu……」


藤村 「syabusyabusyabusyabusyabusyabusyabusyabu……」


吉川 「うへへ……打つの楽しいいいいい」


藤村 「あははは……シャブシャブ打つの楽しいなぁああ」


吉川 「うへへへ……」


藤村 「あははは……」



暗転



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