妖怪紙くしゃくしゃ
吉川 「お、この靴いいなぁ」
藤村 「そうか? よし、じゃ、俺に任せろ」
吉川 「なにを?」
藤村 「店員に掛け合ってみる」
吉川 「おぉ」
藤村 「I’m looking for shose…」
吉川 「お。なんかかっこいいなぁ」
藤村 「hahaha…oh…bye」
吉川 「なんだって?」
藤村 「ダメだ。あの店員。日本語しかしゃべれない」
吉川 「なんだよ! 当たり前だろ。日本語で話せよ」
藤村 「あぁ。その手があったか」
吉川 「普通はその手しかないよ」
藤村 「よし、待ってろ」
吉川 「頼むよ」
藤村 「……え? ほんと? まじで? 俺も昔住んでたんだよ。奇遇だねぇ……」
吉川 「なんか盛り上がっちゃってるな」
藤村 「ふぅ。なんとか三百九十四百円負けてもらった」
吉川 「なんだ、その不思議な単位は」
藤村 「いやぁ、ちょっと盛り上がっちゃって」
吉川 「同郷なの?」
藤村 「いやぁ。彼女、小さいころ家に住んでたんだって」
吉川 「そりゃ誰でもそうだよ。俺だってそうだ」
藤村 「奇遇だなぁ」
吉川 「全然奇遇じゃない」
藤村 「ところでこれにするの? マジックテープついてないけど」
吉川 「紐くらい結べるよ」
藤村 「バカだなぁ。靴紐が切れると超人が一人死ぬんだぞ」
吉川 「テリーマンかよ」
藤村 「あっ!? これはやめておけ」
吉川 「なんで?」
藤村 「中に紙がくしゃくしゃになったのが住んでる」
吉川 「普通入ってるだろ」
藤村 「妖怪紙くしゃくしゃだ」
吉川 「なんだ、そのとってつけた妖怪は」
藤村 「あれにしろ。あれはなんかプラスチックっぽい丸い風船見たいのが入ってるから」
吉川 「そんな基準で靴は選ばないよ」
藤村 「妖怪紙くしゃくしゃにはこういう言い伝えがあるんだ」
吉川 「どんな?」
藤村 「死ぬ」
吉川 「随分ストレートな言い伝えだな。もっといろいろな経緯があってたどり着けよ」
藤村 「悪いことは言わないからこれはやめておけ」
吉川 「やめない」
藤村 「実は妖怪紙くしゃくしゃにはもう一つ隠された言い伝えがある」
吉川 「なんだよ」
藤村 「妖怪紙くしゃくしゃの住んでいる靴に足を突っ込むと、サイズが小さくて入らない」
吉川 「それは邪魔な紙があるからだ! とりだせばいいじゃん」
藤村 「バカ! 不用意にとりだすな。死ぬぞ!」
吉川 「もう取り出しちゃったよ」
藤村 「あぁ……死んだ」
吉川 「まだ生きてるよ」
藤村 「妖怪紙くしゃくしゃが」
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