ペースメーカー

吉川 「なんつーか、停滞してるね」


藤村 「なにが? 季節はずれの台風か?」


吉川 「いや、具体的に何といわれるとあれなんだが、運気?」


藤村 「そんなものは、停滞してる方がいいものだよ」


吉川 「うーん。なんか1000円くらいで景気よく幸せにならないかねぇ」


藤村 「ずいぶんと安く景気をみつもったな」


吉川 「いやぁ、1000円は大金ですぞ」


藤村 「まぁ、そうだけど。考えても見ろ、お前のこの1000円で、恵まれない子供たちにどれだけワクチンが打てるか」


吉川 「う……」


藤村 「あーあ、お前が1000円出さないから今死んだ」


吉川 「そういうこと言うなよ……」


藤村 「また死んだ」


吉川 「いや、確かに正論だけどさぁ」


藤村 「要するにリアリズムがないんだな。自分の身近でないから他人の死も不幸に思えない」


吉川 「まぁ、それはあるね」


藤村 「じゃ、仮に俺が1000円ないと死ぬ身体だったらどうする?」


吉川 「そりゃ、1000円出すよ」


藤村 「うっ……やばい。もう死にそう」


吉川 「えー。そんないきなり」


藤村 「いきなり死にそうだ」


吉川 「なんでまた」


藤村 「あれだ。キープ・オン・ダンシングが。ダメになった」


吉川 「キープ・オン・ダンシング?」


藤村 「あ、違う。ペースメーカーだ」


吉川 「だいぶ違うよ」


藤村 「踊りたくなるようなペースメーカーなんだよ」


吉川 「なんだそれは」


藤村 「ダンスのペースをキーポンしてメークするんだよ」


吉川 「一個も伝わらない。やり手のコンサルタントか」


藤村 「俺の心臓でペースが一生懸命メークしてコミットしてサスティナブルしてくれてる」


吉川 「人力なのか」


藤村 「ちっちゃいコンサルが」


吉川 「知らなかったよ。そういう仕組みになってたとは」


藤村 「こいつが、賃上げ要求をしてきた」


吉川 「それが1000円?」


藤村 「その通りだ。1000円ないと俺は死ぬ」


吉川 「なんか釈然としないけど、1000円でいいの?」


藤村 「おぉ。これでペースメーカーのコンサルもアジャイルしてくれる」


吉川 「なんで1000円を財布に入れるんだ」


藤村 「この財布はコンサルと共有なんだよ」


吉川 「そうだったのか……コンサルのやつめ」


藤村 「どうだ? 人の命を救った感想は?」


吉川 「いや、あんまり救った感じがしない」


藤村 「俺はお前のおかげで生きてるんだぞ! もう、お前なしじゃ生きられない」


吉川 「誤解されるような言い方はやめてくれ」


藤村 「コンサルに替わって礼をいうよ」


吉川 「そりゃどうも」


藤村 「これでみんな幸せになったと言うわけだ」


吉川 「なんというか、幸せと言うよりも損をしたような気がしないでもない」


藤村 「バカ言うな! これ以上の幸せがどこにある。俺が死んでもいいのか?」


吉川 「いや、死なれちゃ困るけど」


藤村 「ぐはっ! 今度は肝臓が」


吉川 「肝臓にもコンサルがいるのか」


藤村 「肝臓にそんなやつがいてたまるか!」


吉川 「えー。心臓にはいたのに」


藤村 「肝臓がとても痛い」


吉川 「それはいくらだ?」


藤村 「お前は何でも金で解決か! この守銭奴!」


吉川 「ひどい言われようだ。お前がさっき言ったのに」


藤村 「そういう考えは金をもつからいけないんだ。すべて私に寄与しなさい」


吉川 「えー、なんかそれは違う問題じゃ」


藤村 「違くない。あー死ぬ。もう死ぬ。お前のせいで死ぬ」


吉川 「全然俺のせいじゃないのに」


藤村 「あーぁ、一機死んだ」


吉川 「なんだ一機って」


藤村 「残り三機しかない」


吉川 「そんなのお前のさじ加減一つじゃないか」


藤村 「頼む。お前の金で酒を買ってきてくれ」


吉川 「とんだろくでなしだ。だいたい肝臓悪いのに飲んじゃダメだろ」


藤村 「酒は百薬の長だぞ」


吉川 「肝臓には毒だろ」


藤村 「ちょっとだけだから。ワンカップでいいから」


吉川 「やだよ! とっととくたばれ」


藤村 「いいのか? 本当に死んじゃうぞ」


吉川 「買ってこないよ。ワンカップなんて」


藤村 「残念。ワンナップしそこなったか……」


吉川 「さすが百薬の長だ」



暗転

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