意志を持つ刃

刃  「長いこと待ったが、まさか我を手にするのが剣士でもなくお前のようなものだとはな」


吉川 「えっ!? こいつ、しゃべった!」


刃  「こいつとは無礼なやつだ。我の切れ味を見たろ」


吉川 「見たけど……。しゃべるタイプだと思ってなかったから」


刃  「我が主としては力不足だが、致し方あるまい」


吉川 「すごい偉そうなこと言ってるけど、皮むきのピーラーだよね?」


刃  「あらゆるものを一刀のもとに断ち切る、魔剣と呼ばれることもあった」


吉川 「ピーラーでしょ。あらゆるものを断ち切れる形状じゃないよ。表面をツラ~と切る感じだもん」


刃  「我が主よ。存分にこの力を使え」


吉川 「存分って言われても、皮むく時くらいしか使い道ないから」


刃  「寂しくなった時に話し相手とか」


吉川 「あ、そういうのもできるの? おしゃべり機能的な解釈で?」


刃  「もう、血を流すのには飽きた」


吉川 「あんまり血が流れないような構造じゃない? そのために造られてる節すらあるから」


刃  「果汁を流すのにも飽きた」


吉川 「そっちだよね。主に流してたのは。すごく質実剛健っぽいキャラの話し方してるけど」


刃  「うむ。最近、なにか面白いことあった?」


吉川 「フランク! うむって言う人がそんなに当たり障りのない導入で接することある?」


刃  「我はヒップホップとか聞き始めたのだが」


吉川 「一人称が我の人がヒップホップ聞くの? 喋り方が独特な割に親しみやすそうな内容」


刃  「その辺は心がけておるからな。しゃべる給湯器やしゃべる掃除機の後塵を拝すわけにはいかん」


吉川 「ライバル視してたんだ! しゃべる家電に。刃なのに。刃っていうかピーラーなのに」


刃  「しかし我が主ながらその腕前は末恐ろしいな」


吉川 「ちょっと媚びてる? 気に入られようとしてない? あんまりピーラーの腕前に伸びしろってなさそうだけど大丈夫?」


刃  「我も昔は頑なであった。使い手を選んでいたのだ。鉄だけに頭が硬かったのだろうな」


吉川 「はい」


刃  「鉄だけに。硬かったのだ。鉄だけに」


吉川 「あ、ダジャレ? ウケようとしてたんだ」


刃  「切れ味が鋭すぎたな」


吉川 「そんな何度もリピートするような出来じゃないと思うけど」


刃  「しかし我も昔のままではいられない。この力を使わずに眠らせておくことのほうが罪だと気がついたからな」


吉川 「うちはそんなに皮むく機会ないから、結構眠ってもらうことになるかもしれないんだけど」


刃  「それもよかろう。新しい生き方だ」


吉川 「結構な決意をしたんですね」


刃  「うむ、一皮むけたのだ」



暗転

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