吉川 「え? 蚊?」


蚊女 「ヴァンパイア・レディーとお呼び」


吉川 「だって、蚊でしょ?」


蚊女 「なによ! 蚊だって蝙蝠だって一緒でしょ」


吉川 「いやいや、全然一緒じゃないでしょ。虫だし」


蚊女 「虫の何が悪いの! 血を吸うんだから一緒じゃない」


吉川 「なんていうかなぁ。不気味さがない」


蚊女 「そんなのどうだっていいじゃない。朗らかで何が悪いの!」


吉川 「いや、別に朗らかだとは言ってないけど。あと、牙ないでしょ?」


蚊女 「牙がなくても血を吸えばいいんでしょ」


吉川 「なんか管みたいな口だし」


蚊女 「そういう、人の身体的特徴を差別するのってひどいと思うわ」


吉川 「なんか、吸血鬼っていう感じじゃない」


蚊女 「吸血するじゃない! ちゃんと闇夜を飛ぶし」


吉川 「吸われたらどうなるの?」


蚊女 「どうって……それは」


吉川 「吸血鬼になるわけじゃないでしょ?」


蚊女 「う、うん」


吉川 「かゆくなるだけでしょ?」


蚊女 「ただのかゆみじゃないんだから! すっごいかゆいんだよ!」


吉川 「いや、かゆさのレベルの話じゃなくて、かゆくなる程度ってのが問題なのよ」


蚊女 「だって、蚊だもん」


吉川 「やっぱ、それで吸血鬼って言われても、こっちも怖がれない」


蚊女 「あ。十字架が苦手!」


吉川 「え? そうなの? 意外」


蚊女 「そうそう。吸血してかゆくふくれたところに、爪で十字にギューっとされると、なんかやだわぁ」


吉川 「そんなこと、おじいちゃんしかしない」


蚊女 「そうなのっ!?」


吉川 「蚊にくわれたところに爪でバッテン作ってる若者なんてみたことないよ」


蚊女 「ガーン」


吉川 「あと蚊って、怖いって言うよりむかつくでしょ」


蚊女 「なによ! その言い方」


吉川 「だって、刺されてもいいけど耳元でプーンとか飛ばれると、心底腹が立つ」


蚊女 「あれは作戦」


吉川 「作戦なの?」


蚊女 「イライラさせて血の気を多くさせる作戦」


吉川 「ずいぶん持って回った作戦だなぁ」


蚊女 「恐れ入った?」


吉川 「で、血の気が多くなるとどうなるの?」


蚊女 「どうって……美味しくなるような気がする」


吉川 「気だけか」


蚊女 「あと、蚊は怖いのよ! 病気とか媒介するし」


吉川 「それは怖いな」


蚊女 「まぁ、私はしないけど」


吉川 「なんで?」


蚊女 「自分が先に感染しちゃうから」


吉川 「なんてダメな吸血鬼だ」


蚊女 「しょうがないでしょ!」


吉川 「そもそも、なんで女なの?」


蚊女 「知らないの? 蚊で吸血するのは妊娠中の女だけなのよ」


吉川 「そうなのか」


蚊女 「だから言うなれば、人妻にキスされたようなもんね」


吉川 「いや、だいぶ違うと思う」


蚊女 「なんと言われようと、私はヴァンパイア・レディーなの!」


吉川 「蚊の鳴くようのな主張だな」



暗転

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