HIPHOP

藤村 「イェー、俺は産院生まれの箱入り育ち、だいたい友達……はいない」


吉川 「変な人だ」


藤村 「変な人じゃないよ。俺はMC・ラッパー」


吉川 「そんな全代表を背負っちゃってる名前で大丈夫なのか」


藤村 「マイク1本で生きてく覚悟、だけど安いやつだから壊れちゃってこれ3本目」


吉川 「物理的にマイク1本じゃなくてもいいんじゃないですかね」


藤村 「どうですお客さん、1フューチャリング1000円」


吉川 「そういう商売の形態なの? 見たことないよそんなヒップ・ホップ」


藤村 「ヒップ・ホップを突き詰めた俺はたどり着いた、そこはフップ・ヘップ」


吉川 「突き詰める方向恐らく間違ってたね。内に内に行っちゃたんだ」


藤村 「どうです、1フューチャリング?」


吉川 「1フューチャリングって聞いたことないのよ。その概念自体が」


藤村 「ヨー、お客さんのお名前は?」


吉川 「吉川ですけど」


藤村 「そいつはすげぇぜ、ビッグな名前だ。そんな名前は聞いたことねぇ」


吉川 「いやあるだろ。割とポピュラーな名前だ」


藤村 「エストニアには一人もいねぇぜ。唯一無二だぜ吉川さん。血液型はどういうフップ・ヘップ?」


吉川 「フップ・ヘップかはわからないけどO型です」


藤村 「そいつはすげぇぜ、一番いい血液型だぜ」


吉川 「そうなの?」


藤村 「痒いところに手が届くやつはみんなO型、これ常識」


吉川 「全体的に括りが大雑把だな」


藤村 「その肘の皮の薄いところ最高。あと膝の皿が丸くて可愛い」


吉川 「フューチャリングってそう言うのなの? 褒めてく感じの?」


藤村 「顔も……顔はともかく、指の長さがいいぜ。中指が一番長い」


吉川 「顔を褒めろよ。そこはありませんでした、みたいになるの一番失礼だよ」


藤村 「ジャケット毛羽立ってる。ケバい」


吉川 「もう褒めてるのかもわからない。だいたいヒップ・ホップって言ってるけど、あんた今まで一度も韻踏んでないよね?」


藤村 「韻?」


吉川 「韻知らないのかよ。あるでしょ、あのラップのすごい人がやると格好いいのに素人がやるとダジャレみたいになっちゃうやつ」


藤村 「ごめんなさい。サイ。あの、アフリカの角がある大きな動物のやつ」


吉川 「ダジャレっぽくすらなってない。逆にすごいな」


藤村 「だいたいこの当たりで1フューチャリングだぜ」


吉川 「払うの? これで1000円? 得るもの何もなかったけど」


藤村 「お願いします。鱒寿司」


吉川 「なんだよ、鱒寿司って」


藤村 「しますと韻を踏んだ鱒寿司」


吉川 「日本一下手くそなの?」


藤村 「寂しいことを言うなよ、刺し身」


吉川 「寄ってないのよ。寄ってない上に意味もないのよ。話の最後に意味なく刺し身って言う人いないでしょ」


藤村 「指摘がとてもためになったぜ。プチョヘンザ」


吉川 「その褒めてくれる感じは悪くないけど。ラッパーってディスったりするイメージあったから」


藤村 「フューチャリングだから」


吉川 「だからなんなんだよ。そのフューチャリングって、どういう認識でやってるんだよ」


藤村 「言わなくてもいい余計なことを合間合間に入れていく最高のやつ。つまりラブ・ハンド」


吉川 「合いの手かぁ」



暗転

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