おはぎ

吉川 「おはぎって、なんか許せない」


藤村 「なんだと!」


吉川 「だってさ、手が汚れるじゃん」


藤村 「それがどうした! 撤回しろ! おはぎを侮辱するやつは俺を侮辱したも同然だ」


吉川 「なんでお前がそこまでおはぎに肩入れしてるんだ」


藤村 「おはぎは、美味いからだ」


吉川 「だってさ、手が汚れないようにあんこを餅で包むという大発明をわざわざ逆転してるんだよ」


藤村 「語るに落ちたな、それが渚のカウボーイと呼ばれたお前の言い分か」


吉川 「いまだかつて一度もそんな呼ばれ方したことない」


藤村 「そもそも、おはぎというのは丁寧な言い方だからな。俺はボタモチなんていう呼び方は認めない」


吉川 「べつにどっちでもいいけど」


藤村 「では今こそ語ろう。おはぎに隠された男たちの血と汗と涙のラブストーリーを」


吉川 「ラブストーリーなのかよ。脂っこそうなラブだなぁ」


藤村 「そもそも、おはぎというのは寛永七年、タンザニアからの密航者、オハギンによって日本にもたらされ……」


吉川 「嘘をつけ! なんだ、タンザニアって、そんなところから密航者がくるか」


藤村 「俺の巧妙な嘘を見破るとは、まずは第一関門突破だ」


吉川 「別に突破したくてしたわけじゃない」


藤村 「さすが、渚のカウボーイの名は伊達じゃないってか」


吉川 「いや、だからそれは伊達です」


藤村 「おはぎとは、愛の食べ物」


吉川 「えー」


藤村 「おはぎの『お』は、お父さんの愛」


吉川 「お父さんの……」


藤村 「おはぎの『は』は、母親の愛」


吉川 「お母さんじゃないんだ。表記一致させてくれない?」


藤村 「おはぎの『ぎ』は、義理の姉の愛」


吉川 「ダウト」


藤村 「ばれた?」


吉川 「ばれるよ! なんだ義理の姉って、誰でもいいじゃねーか」


藤村 「まぁ、今までのは嘘として、本当はおはぎっていうのは……」


吉川 「うん」


藤村 「おいしい」


吉川 「うん」


藤村 「歯にいい」


吉川 「そうかぁ?」


藤村 「銀歯でも大丈夫。のおはぎだ」


吉川 「なんで、歯ばっかり強調するんだ」


藤村 「それだけ、庶民の歯の味方だったんだよ」


吉川 「そんな味方されたことない」


藤村 「実はもう一つの説もあって」


吉川 「いや、決して今の説も認めたわけじゃないよ」


藤村 「おやつは、ハムと牛乳よ。でおはぎ」


吉川 「なんだ、そのいかんともしがたいおやつは」


藤村 「もともとおはぎはハムと牛乳から出来てた」


吉川 「動物性じゃないだろ。どう考えても」


藤村 「じゃ、こういうのはどうだろ?」


吉川 「なんか、大喜利みたいになってきた」


藤村 「王様、早く、ギロチンを!」


吉川 「やだよそんなの! なんて殺伐としたエピソードなんだ」


藤村 「さすがの渚のカウボーイも、コレにはお手上げかな」


吉川 「だから、俺は渚のカウボーイなんかじゃないって」


藤村 「へぇ、じゃ、俺がもらってもいい?」


吉川 「なにを?」


藤村 「渚のカウボーイの称号を」


吉川 「いらないよ。あげるよそんなの」


藤村 「やったー! 棚からぼたもちだ」


吉川 「え?」


藤村 「え、いや……。棚からギロチン!」


吉川 「さっきの引きずられちゃってるじゃん!」



暗転

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