戦場シリーズ

吉川 「藤村。俺はもう終わりだ、お前一人でも生残れ」


藤村 「吉川、何を言ってるんだ。今のお前は冷静じゃない」


吉川 「いや、俺は生まれてから今が一番、冷静なのかも知れない。俺は今まで戦争に狂わされてきた」


藤村 「バカを言うな」


吉川 「本当だ。俺は戦場でしか生きることが出来ない男。人を殺めることでしか自分を保てない人間なんだ」


藤村 「しかし、俺は何度もお前に命を救われてきた」


吉川 「お前の力が必要だったからだ。だが、それももう終わりだ。すまない」


藤村 「バカヤロー! 俺たちはまだ負けてない」


吉川 「もう、勝ち負けなど、どうでもいいじゃないか」


藤村 「お前にも守りたいものがあるだろ!」


吉川 「守りたいもの? それは自分だ。俺は自分を守るためだけに生きてきたんだ」


藤村 「そんな……。このままでいいのか?」


吉川 「もう、終わりにしようじゃないか」


藤村 「お前がそんな腑抜けだとは思わなかったぜ。あの、いつも果敢で冷静で、誰からも尊ばれ、敬われたお前はどこに行ったんだ」


吉川 「そんな俺など、初めからいなかったんだ。俺はいつも恐れていた、死ぬことを、殺すことを、生きることを」


藤村 「だったら生きろよ! そんな、一人だけ抜け駆けしようったって許さないぞ!」


吉川 「もう、俺の先にはなにもない」


藤村 「それでも生きろよ!」


吉川 「無理だよ。もう疲れたんだ」


藤村 「ならば憎め! 憎しみは生きる力になる!」


吉川 「何を憎めと言うんだ? 敵をか? 戦争をか? 人間をか?」


藤村 「……俺を憎め」


吉川 「はは……お前を憎んでどうなる」


藤村 「それが力になるなら、俺を憎め、俺は……お前に生きて欲しい」


吉川 「なおさら憎めないな」


藤村 「やーい! バーカバーカ! くるくるぱー!」


吉川 「……なんだそれは。そんな挑発で俺がお前を憎むとでも?」


藤村 「へー! 眉毛がピクピクしてるぞ? 怒った? マジギレですかぁ?」


吉川 「ちょ、ちょっと、むかつく」


藤村 「その意気だ!」


吉川 「いや、こんな意気をもらってもどうしようもない」


藤村 「お前が寝てる間に髪の毛にガムつけたの、実はあれ俺」


吉川 「お前だったのか! ……まぁ、そんなこと今となってはどうでもいい」


藤村 「あと、お前から巻き上げたポーカーだけど、あれ全部イカサマ」


吉川 「やっぱり!? 絶対そうだと思ってたんだよ。シックスカードっておかしいもん! 明らかに一枚多いもん!」


藤村 「あ、怒った?」


吉川 「いや……。まだまだ」


藤村 「あと、お前に教えたドラえもんの最終回だけどな、あれも嘘」


吉川 「まじでっ!? ドラえもんがロボット警察になってウォーズマンと一緒に戦うってやつ?」


藤村 「本当はそれ、スクラップ三太夫の最終回」


吉川 「おかしいと思ったよ! ウォーズマンが酔っ払い刑事になってるなんて」


藤村 「それは本当」


吉川 「ガーン! そこは本当なのか。嘘であって欲しかった」


藤村 「あと、手相見れるって言ってたけど、本当はそんなの全然見れない」


吉川 「え? じゃぁ、俺がプレイボーイの運気がでてるってのも?」


藤村 「でまかせ」


吉川 「なんだよ! どうりで、全然プレイしてないからおかしいと思ったんだよ」


藤村 「あとお前から借りてたファミコンのカセット。全部売っちゃった」


吉川 「売っちゃったのっ!? 俺の青春のメモリーを!」


藤村 「一本20円だって。安くてビックリしたよ」


吉川 「いや、だったら売るなよ。メモリー返せよ!」


藤村 「あと、俺。アン・ハサウェイと知り合いだって言ったじゃん?」


吉川 「それも嘘!?」


藤村 「うん」


吉川 「じゃ、あの電話番号は?」


藤村 「あれは俺のお袋」


吉川 「なんだよー! 緊張してかけるの躊躇しちゃってたよ! こんなことならかけておけばよかった。……いや、かけてもしょうがないんだ」


藤村 「俺のお袋でよければ……」


吉川 「いいわけあるかいっ!」


藤村 「あと、俺のあげたお守り持ってる?」


吉川 「あぁ。これな」


藤村 「それ、死んだ敵のやつ」


吉川 「縁起悪いっ! そんなのくれるなよ」


藤村 「なんか拾っちゃって。気持ち悪いからあげた」


吉川 「俺は寺か。なんだよ、もう! お守りだけに捨てるのも、なんかあれだし」


藤村 「なー。困るよな?」


吉川 「だったら拾うなよ!」


藤村 「あとニガリ勧めてたじゃん?」


吉川 「あぁ、身体にいいからって。飲んでるよ」


藤村 「あれ、本当はあんまりよくないらしいよ」


吉川 「まじで!?」


藤村 「いや、俺も聞いた話だからなんとも……」


吉川 「なんだよ! はっきりしてくれよ。いいのか悪いのか、なんかヤキモキするじゃんか!」


藤村 「俺は初めからやってないからいいんだけど」


吉川 「俺だけかよ! なんだ? あれだけ熱心に勧めておいて」


藤村 「いやぁ。だって気持ち悪いじゃん? あんなよくわからない効果」


吉川 「だったら勧めるなよ! なんで俺が身を持って検証しなきゃいけないんだ」


藤村 「ねぇ」


吉川 「ねぇ。じゃないよ! なんか最近、身体の調子いいかも……とか言っちゃってた俺の立場はどうなるんだよ」


藤村 「騙されやすいねぇ」


吉川 「お前が騙してるんだろうが!」


藤村 「怒った?」


吉川 「怒っ……怒ってないよ。別にぃ!」


藤村 「あー。怒ってる。口の端がへになってる」


吉川 「全然。この程度じゃ憎しみなんて湧かないね」


藤村 「そうかぁ。じゃ、とっておきのやつ」


吉川 「まだあんのかよ!」


藤村 「実は、この場所、敵にばらしたの俺」


吉川 「貴様っ!」


藤村 「あー。怒った怒った!」


吉川 「当たり前だ!」


藤村 「吉川……それが、希望だ!」


吉川 「いや、絶望だろ」



暗転

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