海外進出

藤村 「日本は俺にとっては狭すぎる」


吉川 「なんだ急に、ダイダラボッチみたいなこと言い始めた」


藤村 「いや、広さじゃなくて、なんというか懐の深さみたいなね」


吉川 「十分、深いと思うけどな」


藤村 「ダメだね。俺にとっては狭すぎる。膝丈くらいしかない」


吉川 「お前がそんなに日本の現状を憂いているとは思わなかった」


藤村 「だから、俺は海外に進出するぞ」


吉川 「ほぉ」


藤村 「念のためにパスポートも取っておいた」


吉川 「念のためじゃなくて、パスポートは必要だろ」


藤村 「あとは行くだけだ」


吉川 「ずいぶん簡単に考えちゃってるなぁ」


藤村 「日本とは正反対の国に行く」


吉川 「どこだろ? 共産主義の国か?」


藤村 「南米だ」


吉川 「あぁ、地球的に見て反対ってことね」


藤村 「季節も時差も反対だぜ」


吉川 「そうだね」


藤村 「まぁ、俺は昔からサッカーが得意だったからな」


吉川 「そんな話、初めて聞いたよ」


藤村 「日本の田中と言えば俺のことだよ」


吉川 「いや、お前は藤村だろ。日本の田中は普通に田中さんのことだ」


藤村 「小さいころから貧民街でサッカーだけを頼りに生きてきた」


吉川 「いったい日本のどこ出身なんだ」


藤村 「そんな俺もついに南米デビューだ」


吉川 「はぁ。おめでとう」


藤村 「日本からきた神風ルチャドールとして大活躍するよ」


吉川 「サッカーじゃないのか」


藤村 「サッカーで鍛えた脚力がルチャドールとして開花する予定」


吉川 「それはまた随分都合のいい予定だな」


藤村 「まずは謎のマスクマン、ソニー・ニンテンドーとして颯爽とデビュー」


吉川 「活躍の見込みがまるでなさそうだ」


藤村 「本場のブラジリアン柔術相手に俺の空中殺法が火を噴く」


吉川 「やるなぁ。ソニー・ニンテンドー」


藤村 「その後、ファイトマネーでコーヒー農園を経営。これが大当たり」


吉川 「ルチャはどうしたんだ」


藤村 「二代目ソニー・ニンテンドーにすべてを託して引退する」


吉川 「勝手に二代目にされた方も気の毒だ」


藤村 「そしてサンバカーニバルで出会った粋なリオっ娘と恋に落ちる」


吉川 「もう、どうでもいい展開になってきた」


藤村 「しかし、二人の間に家柄という厚い壁が立ちふさがる」


吉川 「へー」


藤村 「どうするっ!? ソニー・ニンテンドー!」


吉川 「それはもう、引退したんじゃなかったのか?」


藤村 「こうなったらサッカーで勝負だ!」


吉川 「少年マンガみたいな展開になってきた」


藤村 「望むところよ。フッフッフ」


吉川 「誰だそれは!? いきなり人物が代わったぞ」


藤村 「くらえー! ネオコーヒー豆シュート!」


吉川 「ずいぶんしょぼいシュートだな」


藤村 「なにぃ!? こ、これが、ネオコーヒー豆シュートだとぉ!?」


吉川 「だから、誰なんだそれは」


藤村 「俺のすべてを注ぎ込むぜー!」


吉川 「一人二役なのね? そうなのね?」


藤村 「こ、これはっ!? 美味い! 美味いぞぉ!」


吉川 「サッカー勝負じゃなかったのかよ」


藤村 「そして、俺のコーヒーに対する情熱にほだされた二代目ソニー・ニンテンドーは……」


吉川 「二代目と戦ってたのかよ。もう展開がごっちゃだよ」


藤村 「日本に帰り、タバスコを広めた。そう、彼こそがのちのアントニオ猪木である」


吉川 「ちょっと待った! 色々と待った! そもそも、なに時代だ」


藤村 「藤村、闘魂ブラジル編だよ。次は風雲欧州編に続く」


吉川 「お前の昔話か。というか、妄想か。微妙に実在の人物を絡めちゃダメだろ」


藤村 「フッフッフ。どうやらばれてしまったみたいだな。そう、私の正体は、初代ソニー・ニンテンドーこと……」


吉川 「藤村だろ」


藤村 「日本の田中だ」


吉川 「だからそれは田中さんだ」



暗転



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る