航海人間
藤村 「波~に揺~られて生きる、おれたちゃ航海人間なのさっ♪」
吉川 「キャプテン!」
藤村 「早く人間になりたーい」
吉川 「キャプテン!」
藤村 「なんだよ、吉川くん。人が気持ちよく航海人間ゲロを詠唱してるのに」
吉川 「いや、ゲロはいいですから、船のこと考えてください」
藤村 「私がキャプテンを勤めるからには大船が沈んだような気でいたまえ」
吉川 「沈んじゃダメじゃないですか! ほら、新米船員がホームシックにかかってます」
藤村 「いいか? 海というのは母のようなものだ、そう思えばホームシックにかかるなんてわけがない」
吉川 「でも……」
藤村 「わかった。どうしてもというなら、私が可愛い妹の役を演じよう」
吉川 「なんで妹……」
藤村 「お兄ちゃん……私、ずっとお兄ちゃんのこと……」
吉川 「しかもエロマンガみたいな展開だ」
藤村 「お姉ちゃんだと思ってた!」
吉川 「気づけよ! こんなむくつけき船員をお姉ちゃんと思うなよ」
藤村 「ほら、これでだいぶ楽になっただろう」
吉川 「キャプテン! ネズミです。ネズミが発生してます」
藤村 「あわてるな。こんなときは……ちゃらららっちゃら~」
吉川 「おお! 丸秘アイテムが」
藤村 「僕ドラえもん! ギャピー! ネズミー!」
吉川 「物まねだけかよ。しかもまるで役に立ってない」
藤村 「これでよし」
吉川 「なにがよしなんだ」
藤村 「うーむ。陸はまだ見えんな」
吉川 「キャプテン! 大変です。三時の方角に海賊が!」
藤村 「僕ドラえもん」
吉川 「まだやってるのか」
藤村 「もう、のび太くんはしょうがないなぁ。こんな時は、逃げる」
吉川 「逃げるのかよ」
藤村 「バカ! 海賊なんてのは戦ったら最後、いろいろいやらしい拷問とか受けちゃうんだぞ」
吉川 「そんな海賊はあまりいない」
藤村 「バカヤロー! 命を粗末にするんじゃねー」
吉川 「いたっ! キャ……キャプテン……」
藤村 「俺にとっちゃ、この船の乗組員は家族と一緒だ」
吉川 「キャプテン。すみませんでした」
藤村 「こんな家、出てってやるぅ!」
吉川 「一人だけ逃げようとしてる!」
藤村 「バカ、おとり作戦だよ」
吉川 「はっ!? キャプテン……まさかあんた……」
藤村 「あぁ……短い付き合いだったけど、悪くなかったぜ。俺のために死んでくれ」
吉川 「こっちがおとりかよ」
藤村 「お前の方が丸々太っていて美味しそうだ」
吉川 「人間なんて食べないですよ!」
藤村 「海賊はなんでも食う。人間だろうと、ピーマンだろうと」
吉川 「そりゃ、ピーマンくらいは食べるでしょうよ」
藤村 「あいたっ! お前を殴ったときに手を骨折した。名誉の負傷だ」
吉川 「えー。殴られたの俺なのに」
藤村 「いいか、吉川。航海と言うのはな、常に死と隣り合わせなんだよ」
吉川 「死……」
藤村 「俺の親父も……船乗りだった」
吉川 「じゃぁ、お父さんは……」
藤村 「あぁ。この海で……」
吉川 「キャプテン……」
藤村 「悠悠自適のバカンスを楽しんでるだろうよ」
吉川 「生きてるのかよ! しかもバカンス」
藤村 「株で当てちゃったらしくて」
吉川 「しかも船関係ねーし」
藤村 「ところで海賊はどこに行った?」
吉川 「あれ? どうやら……見逃してもらったみたいですね」
藤村 「キャプテン藤村の名を恐れて逃げ出したか」
吉川 「名乗る気配すらなかったじゃないですか」
藤村 「よーし。北北西に進路をとれー。よーそろー」
吉川 「キャプテン! 大変です。食料が尽きてます」
藤村 「大丈夫。そんな時のためにちゃんと準備してある」
吉川 「さすがキャプテン」
藤村 「航海人間ゲロと呼んでくれ」
吉川 「それは呼ばれて嬉しいんですか?」
藤村 「波~に揺~られて生きる、おれたちゃ航海人間なのさっ♪」
吉川 「ゲロ!」
藤村 「早く人間を食べたーい」
吉川 「キャプテン!」
暗転
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