初詣

吉川 「寒いなぁ」


藤村 「なぁ、あれ行かない?」


吉川 「なに?」


藤村 「初詣」


吉川 「やだよ」


藤村 「なんでだよ。宗教上の理由か?」


吉川 「いや、そういうのじゃなくて、寒いし面倒」


藤村 「寒いとはなんだ。子供は親の子っていうじゃないか」


吉川 「言うよ? 普通のことだよ親の子は。風の子じゃない? だいたい子供じゃないし」


藤村 「俺はお前をそんな風に育てた覚えはないぞ」


吉川 「俺だって育てられた覚えなどない」


藤村 「この親不孝モンスター! 略して親不孝もん!」


吉川 「いや、そんな奇怪な略しかたしないでくれ。親不孝もんはポケモン的な略称じゃないからね」


藤村 「とにかく、初詣にいこう」


吉川 「なんでそんなに初詣に行きたがるんだ」


藤村 「初詣をするのは日本人として当然のことだろ」


吉川 「じゃ、おれインド人でいいや。一人で行ってくればいい」


藤村 「この非国民! カレー好きめ。俺はお前と行きたいんだ」


吉川 「なんでだよ」


藤村 「お前がおみくじで大凶をひいてガックリするのを見るのが俺の初詣だ」


吉川 「なんで大凶をひくのが前提なんだ」


藤村 「インド人は大凶を引くもんだ」


吉川 「インド人に失礼だな」


藤村 「願い事かなうぜぇ?」


吉川 「願い事ないからいい」


藤村 「新年早々そんなことでどうする!」


吉川 「じゃ、お前の願い事は何だよ」


藤村 「お前が大凶を引きますように」


吉川 「なんで人の不幸を願うんだ」


藤村 「お前は大凶を引かないように願えば、相殺されてOKになるぞ」


吉川 「おみくじ引かなきゃいいじゃん」


藤村 「このバカットモンスター! 略して馬鹿もん!」


吉川 「完全にポケモンに寄せてきたな。バカットという言葉自体初めて聞いたよ」


藤村 「わかった。寒いから行かないっていうんなら、暖かい神社に行こう」


吉川 「なんだよそれ」


藤村 「いいか? 南半球はいま夏だぜ?」


吉川 「なんで初詣に海外まで行かなきゃいけないんだ」


藤村 「一緒にオーストラリア神宮に行こうぜ」


吉川 「なんだ、その神社は。適当すぎる」


藤村 「神主はカンガルーだぜ?」


吉川 「すごい適当に言ってるだろ」


藤村 「お前のその頑なさはなんだ。初詣に嫌な思い出でもあるのか?」


吉川 「嫌な思い出はないけど、とくにいい思い出もない」


藤村 「今年はいいことあるって。行く途中にトーストくわえた転校生と激突する」


吉川 「こんな正月に転校生がトーストくわえて走るか」


藤村 「じゃ、おせちをくわえた転校生」


吉川 「そんなものくわえながら走る人間はいない!」


藤村 「じゃ、もちをつきながら走ってる」


吉川 「それはただの危険人物だ。激突したくないよ」


藤村 「万が一に備えて、きな粉を持っていったほうがいいかな?」


吉川 「どうでもいいよ。激突しないから」


藤村 「新年初激突だぞ?」


吉川 「できることなら、一年を通して激突はまのがれたい」


藤村 「どうしてもいかないんだな?」


吉川 「あぁ。寒いもん」


藤村 「寒いモン? サムイット・モンスターか?」


吉川 「寄せてくなよ。あらゆる『もん』をポケモン解釈で生まれ変わらせるなよ」


藤村 「わかった」


吉川 「いやにものわかりがいいじゃないか」


藤村 「こうなるのは去年のうちからわかっていたことだ」


吉川 「なんで?」


藤村 「去年の願い事は、一緒に初詣に行けませんように。だったから」


吉川 「……なんか、それも悔しいな」



暗転

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る