ヒーロー

ヒーロー 「ヒーローキック!」


怪人   「……ぐわっ」


ヒーロー (ふふふ、口ほどにもない)


怪人   (あれ? 全然痛くない)


ヒーロー 「どうだ! 思い知ったか?」


怪人   (ひょっとして……このヒーロー……弱い?)


ヒーロー 「ヒーローパンチ!」


怪人   「……あぁ。痛い」


ヒーロー (む? なんだ? この手ごたえのなさは)


怪人   (やべぇ……こいつ、弱いよ)


ヒーロー (ひょっとして、効いてないのか?)


怪人   (どうしよう。このままじゃ、勝っちゃうよ)


ヒーロー (いや、そんなことはない。なんせ俺は無敵のヒーローだからな)


怪人   (さすがに勝っちゃやばいよなぁ。なんか世界とかダメになっちゃうし)


ヒーロー (きっと俺に恐れをなして反撃してこないんだ)


怪人   (どうしよう、なんか上手いこと言って逃げようかな)


ヒーロー 「どうした、正々堂々とかかってこい!」


怪人   (えー! やばいよ。正々堂々とかかったら死んじゃうよ)


ヒーロー (とか言って、正々堂々とこられたらやばいかも。あー、余計なこと言うんじゃなかった)


怪人   (しょうがない、ちょっと手加減しようかな)


ヒーロー (やばい! 目が本気だよ。ちょっと勘弁してよぉ)


怪人   「キック……」


ヒーロー 「どわはっ!」


怪人   (うわぁ! 無茶無茶ふっとんでるぅ! 手加減したのに)


ヒーロー (痛ぇ! もんのすんごく痛ぇ! こりゃまずい。死ぬ)


怪人   (やっぱり確実に弱いよ。どうしよう……)


ヒーロー 「どうした! 全然効かないぞ!」


怪人   (うそぉーん! 足元ガクガクいってるくせに)


ヒーロー (まじやばい。ここらで一気に決着をつけないと)


怪人   (なんとか、話し合いで上手いこと切り抜けられないかな)


ヒーロー 「来ないならこっちからいくぞ!」


怪人   (いや、来ないならって、行ったら死んじゃうでしょうが)


ヒーロー 「ヒーロー・ファイナル・ビーム!」


怪人   (うわぁ、いきなりファイナルかよ)


ヒーロー 「どうだ!」


怪人   「はぁ。まぁ……痛いっす」


ヒーロー (がびーん! まるで効いてねぇ)


怪人   (あぁ、もっと大げさにリアクションしておくんだった)


ヒーロー (俺のファイナルが……俺のファイナルが……)


怪人   「ぐわぁ! なんかあとからじわじわ効いてきた!」


ヒーロー 「ふふふ、俺のファイナルビームを耐えるとは、なかなか骨のあるやつめ」


怪人   (どうしよう、どう考えても負ける気がしない)


ヒーロー (もう、ファイナルとか言っちゃったしどうしよう……)


怪人   (ここはプライドを傷つけないように上手いこと言わなきゃ)


ヒーロー 「どうした! 降参か!」


怪人   「はい。降参します」


ヒーロー (えー! いきなり降参? まじで?)


怪人   (うわぁ、いまのはさすがにいきなりすぎたかな)


ヒーロー 「降参しても許すもんか!」


怪人   「え……」


ヒーロー (うわぁ。つい、ヒーローっぽさを出すために虚勢を張ってしまった。せっかく降参してくれたのに)


怪人   (せっかく降参してあげたのに! なんだよぉ、こいつ)


ヒーロー 「俺にはまだ……ヒーロー・ファイナル・チョップが残ってる」


怪人   (チョップかよ! 弱そぉ。絶対効かない)


ヒーロー 「くらえっ!」


怪人   「いや、ちょっと待ってください」


ヒーロー (お、なんだ? 本当はヒーロー・ファイナル・チョップは、ただのチョップだってばれたのか!?)


怪人   「いやぁ、じゃ、示談てことにしません?」


ヒーロー 「示談だと! 馬鹿にするな!」


怪人   (人がせっかく譲歩してるのに!)


ヒーロー (あー、俺の馬鹿! いいじゃん。示談でいいじゃん)


怪人   「そこをなんとか……」


ヒーロー 「そうか? そこまでいうなら、考えてもやらないことはないけど……」


怪人   (食いついてきた!)


ヒーロー (でも、ヒーローが示談なんてしていいもんだろうか? いや、ここはヒーローというよりも地球のためを考えるべきだ。そうだ。俺は地球のヒーロー)


怪人   「じゃ、私はこの一件から手を引きますので」


ヒーロー 「ふふふ、さすがにヒーロー・ファイナル・チョップはくらいたくなかったようだな」


怪人   (そんなのどうってことないって!)


ヒーロー (本当はどうってことないチョップなんだけど……)


怪人   「はい。チョップだけは、なにとぞ勘弁を」


ヒーロー (良かったぁ。虚勢を張ってみるもんだ)


怪人   (ふぅ……なんとかこの場は収められた)


ヒーロー 「ところで、示談金は?」


怪人   「え?」


ヒーロー (やべぇ。示談金なんてヒーローっぽくなかった!)


怪人   (金まで取る気かよ)


ヒーロー 「いやならファイナル・チョップだぞ」


怪人   (チョップはどうでもいいんだけど、なんで金まで払わなきゃいけないんだ)


ヒーロー (これじゃやくざと一緒だ)


怪人   「いや、相場がわからないので……」


ヒーロー (どうしよう。いまさら、今のなしって言ったら怒るかな?)


怪人   (まじで倒しちゃおうかな、こいつ)


ヒーロー 「わかった。今の話はなかったということで」


怪人   「え!? 示談なし!?」


ヒーロー (え? いや、示談はありだよ! 示談金はなしで!)


怪人   (なんかこいつむかついてきたな)


ヒーロー 「いやならファイナル・チョップだぞ」


怪人   「ふーん……」


ヒーロー (なんだ、あのなめたリアクションは! たしかにファイナルチョップはなめられて当然の技だけども!)


怪人   (本気で戦っちゃおうかな)


ヒーロー 「くらえ! ヒーロー・ファイナル・チョップ!」


怪人   「……で?」


ヒーロー (がびーん! やっぱり効いてない!)


怪人   (やっぱりこの程度か)


ヒーロー 「はーはっはっはっは。今のはほんの小手調べだ」


怪人   (えー! ファイナルって言ったくせに)


ヒーロー 「本当は今のはセミ・ファイナル・チョップにすぎない」


怪人   (なんだそれ。どうでもいい)


ヒーロー 「本当のファイナル技は、まだとってある」


怪人   (まだそんなこと言ってるよ。どうせたいしたことないくせに)


ヒーロー 「くらえ! ヒーロー・ファイナル……示談!」


怪人   「結局示談かよ」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る