対決

吉川  「まさか……兄さん?」


兄   「うむ」


吉川  「本当に兄さんなのかいっ!?」


兄   「そうだ。弟よ」


吉川  「兄さ~ん!」


兄   「おっと、そこまでだ」


吉川  「え……。兄さん?」


兄   「兄弟ごっこはおしまいだ」


吉川  「そんな……兄さん、なんで? せっかく会えたのに」


兄   「それは、俺とお前に課せられた宿命なのだよ」


吉川  「宿命だって?」


兄   「そう。俺とお前、どちらが真の吉川か決めねばならぬ」


吉川  「いや、真の吉川って……」


兄   「お前を倒して、俺が吉川を名乗る!」


吉川  「別に倒さなくても名乗っていいんじゃないかな」


兄   「それでは真の吉川とは呼べん」


吉川  「そ、そうなの? 別に普通の吉川でいいんじゃ」


兄   「俺はお前との勝負に、これを賭ける!」


吉川  「そ、それは……」


兄   「実印だーっ!」


吉川  「だーって言われても」


兄   「お前も真の吉川を目指すものなら持っているだろう」


吉川  「いや、別に目指してないけど、持ってはいますよ」


兄   「ならば勝負だ!」


吉川  「え……、なんで?」


兄   「それが吉川として生まれた宿命」


吉川  「全国の吉川さんは、決してそんな宿命を背負ってないと思うけど」


兄   「モンゴロイド!」


吉川  「……?」


兄   「あ、ちがっ! 問答無用!」


吉川  「間違えるか、そんな不自然な間違い方あるか!」


兄   「くそぉ。姑息な手を使いやがって」


吉川  「まだどの手も使用してないけど」


兄   「耳まで真っ赤になっちゃった」


吉川  「そんなこと言われても」


兄   「しかし、醤油はトキの糞」


吉川  「勝負は時の運ね。そんな醤油やだから」


兄   「勝負の世界は冷酷。ほら、持っていけ」


吉川  「え? ついちゃったの? 勝負」


兄   「今日限り、俺はお前の兄でもなければ吉川でもない」


吉川  「いや、吉川ではあると思うけど」


兄   「しかし! この俺を倒したからといって油断するな」


吉川  「なにもしてないので油断のしようがないんですけど」


兄   「弟よ……お前に会えて……よかっ……げほっ」


吉川  「えー!? 急に? 急に死ぬの?」


兄   「つばが器官に入った。げほっ」


吉川  「なんだよ! 紛らわしいよ」


兄   「さあゆけ! 真の吉川へとなるのだ!」


吉川  「いや、真じゃなくても吉川だから」


謎の男 「お前が真の吉川か!」


吉川  「誰だ!?」


兄   「なんてこった、新しい刺客が」


謎の男 「お前を倒して俺が真の吉川になる」


吉川  「一体何者だ!」


謎の男 「このさまがな!」


吉川  「いや、それは無理」



暗転

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