格闘技

吉川 (やばいなぁ。何か話をしないと)


藤村 (なんか間がもたないなぁ)


吉川 「藤村さんは、格闘技は?」


藤村 「え? 発情期?」


吉川 (やべー。自分の趣味に走りすぎたか)


藤村 (何を急にこの人は言い出すんだ? そういう趣味なのか?)


吉川 「あ、ごめんなさい。興味なかったですか?」


藤村 「いや、興味はものすごくあるんですけどね。ありすぎるくらい」


吉川 「あぁ、よかったぁ。私ね、見るのも好きなんですけど、自分でもやるんですよ」


藤村 「そうですか。私も、まぁ、けっこうやる方なんですけどね」


吉川 「本当ですか!? うれしいなぁ。同じ趣味の人と話ができるなんて」


藤村 「いや、私の場合、趣味というよりも……」


吉川 「あぁ。むしろ、生き様って感じですか?」


藤村 「まぁ、そこまでいかなくても、なきゃ生きていけないというか、生きていく意味がないというか」


吉川 「そこまで! それはすごいですねぇ」


藤村 「いや、なんかお恥ずかしい」


吉川 「すごいなぁ。結構やられてるんですか?」


藤村 「結構というか、なんかアレですね? こういうの人に言うのって恥ずかしいですね」


吉川 「そうですか? 私なんかむしろ自慢したいくらいですけどね」


藤村 「え? そうなんですか? まぁ、自分で言うのもなんですけど、そうとうの修羅場をくぐってきましたよ」


吉川 「すごいなぁ。聞きたいなぁ。武勇伝」


藤村 「え? ここでっ!?」


吉川 「えぇ。駄目ですか?」


藤村 「駄目って言うか、昼間っからそんな……」


吉川 「あぁ。やっぱり、そうとうやばい修羅場なんですか?」


藤村 「やばいっていうか、なんというか……恥ずかしいじゃないですか、こういうの」


吉川 (やっぱり本格的にやってる人は違うなぁ)


藤村 (何でこの人は、こんな話にすごいくいついてくるんだ。発情期の話なんて)


吉川 「私なんて。かじった程度ですからね。格闘技」


藤村 「格闘技っ!?」


吉川 (あぁ……このくらの達人になると格闘技なんて甘いものじゃないのかもなぁ)


藤村 (なんだよ! 格闘技の話かよ。おかしいと思ったよ。発情期の話なんて)


吉川 「でも、やっぱり聞きたいなぁ」


藤村 「いやぁ……」


吉川 (やっぱりこういうのって話すのあれなのかなぁ)


藤村 (やべぇ。勘違いしてる間に格闘技の達人になっちゃってたよ。いまさらひけね)


吉川 「いや、無理にとは言いませんけど」


藤村 「え、いや。いいんですけどね。じゃ、あのときの話でもしようかなぁ……」


吉川 (やった!)


藤村 (やべぇ。どうしよう。もう嘘をつきとおすしかない)


吉川 「どんな話です?」


藤村 「えっと、大量のサモア人に取り囲まれた時の話を……」


吉川 (すげぇ。すごさが違うよ。大量のサモア人だなんて)


藤村 (しまった。いい加減なこと言いすぎた。嘘だってばれたかも)


吉川 「それってどこで?」


藤村 「え。サモアで……」


吉川 (サモア人と対決しにサモアまで行ったんだ! 桁が違う)


藤村 (普通だ! サモアでサモア人に会うのはいたって普通だ)


吉川 「で、どうなったんですか?」


藤村 「まぁ、あの時はさすがの俺もやばいかな? って思ったね」


吉川 「そうですよね! サモア人ですのね」


藤村 「うん。サモア人だから」


吉川 (全部蹴散らしたんだ。大量のサモア人を)


藤村 (サモア人てそんなにやばい人たちなのか?)


吉川 「で、やっちゃったんですよね?」


藤村 「出たね。俺の右が」


吉川 「右が!」


藤村 (ただの右だとアレだな。情熱の右とでも言っておくか、いや、黄金の右の方がそれっぽいかな)


吉川 「どんな右だったんですか?」


藤村 「うなるような、情熱の黄金だったね」


吉川 「情熱の黄金?」


藤村 (やべー。どっちにしようか迷ってたら、なんか意味不明なことを言ってしまった。なんだよ。情熱の黄金て。そんなもんうなって出してたらあるいみやばい)


吉川 (さすが達人。普通のパンチじゃないんだ)


藤村 「それで、まぁ、拳で語り合ったというか」


吉川 (はぁ、やっぱ言うことが違うなぁ)


藤村 (絶対嘘だって思われてるよ)


吉川 「嘘みたいな話ですね」


藤村 「はは……。だよね」


吉川 (でも本当の話なんだ! 感動)


藤村 (やばい。もはやこれまで)


吉川 「ちょっと稽古つけてもらっていいですか?」


藤村 「え? ここで!?」


吉川 (こんなすごい人にめぐり合える機会そうはない)


藤村 (嘘だと思って試そうって思ってるんだ。どうしよう。弱いのがばれる)


吉川 「さすがにここじゃ駄目ですかねぇ」


藤村 「ほら、他の人に迷惑になっちゃうから」


吉川 (そうだよなぁ。破壊力とかが違うんだろうなぁ)


藤村 (やばい、なんとか適当なことを言って逃げないと)


吉川 「じゃ、今度、道場とかで」


藤村 「いやぁ、俺は実戦派だから、あんまり人前では見せないんだよね」


吉川 (そうだった! この人は達人なんだ。俺なんかが適当に相手してもらえるレベルじゃない)


藤村 (さすがに嘘が苦しい)


吉川 「そうですよねぇ」


藤村 「す、すまんね」


吉川 「いやいや、なにをおっしゃいますか。先生」


藤村 「先生っ!?」


吉川 (あ、いきなり先生呼ばわりは馴れ馴れしかったかな)


藤村 (先生と呼ばれるほどの馬鹿はなしって言うし、馬鹿にされてるのかも)


吉川 「あ、すいません」


藤村 「いや、いいんだけど。そろそろあれですね。出ましょうか?」


吉川 「そうですね。ここの支払いは私が」


藤村 「いやいや、私が」


吉川 「先生のお話を聞けただけでも幸せです。払わせてください」


藤村 「そ、そう? じゃ、お言葉に甘えちゃおうかな」


吉川 (こうして見ると、意外と華奢なんだなぁ)


藤村 (やばい。立った瞬間に突然攻撃とかされたらどうしよう)


吉川 (でも、なんだか殺気のようなものをすごく感じる)


藤村 (やばい! やられる前にやれ。先手必勝だ)


吉川 (なんだ? こっちをすごいにらんでる! なんか失礼なことでもしちゃったかな)


藤村 「うなれ! 俺の情熱の黄金!」


吉川 「わぁ! どうしたんですか?」


藤村 (しまったー! はずれたぁ)


吉川 「あ、トイレだったら、あっちですよ」


藤村 「あ、うん。そう。トイレ……」



暗転

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