トンカチ

吉川 「う……。あれ? 博士?」


博士 「おぉ。吉川くん、目が覚めたかね?」


吉川 「ボクはどうして?」


博士 「喜びたまえ、吉川くん。手術は成功じゃ」


吉川 「手術?」


博士 「ふふふ、君の右手を見てみなさい」


吉川 「……ぎょっ!?」


博士 「驚いたかね?」


吉川 「ななな、なんですか? これは」


博士 「トンカチじゃ」


吉川 「トンカチっていうか、ハンマーじゃないですか! なんでぼくの右手が」


博士 「昔、怪物君ってあったでしょ? それで手がトンカチになるのに憧れて、つい手術しちゃった」


吉川 「ついって! なんで、ぼくでするんですか!」


博士 「それは、わしのわずかばかりのサービス精神」


吉川 「いらないですよ! そんなサービス。戻してくださいよ」


博士 「戻すのは多分無理」


吉川 「無理って! これ、今後どうやって生きてけばいいんですか」


博士 「右手トンカチ人間として幸せに暮らせばいいじゃないか」


吉川 「のっけから幸せ放棄してるような化け物じゃないですか」


博士 「化け物とはなんじゃ! 怪物くんと言え」


吉川 「一緒ですよ!」


博士 「こらこら、右手を振り上げるな。君のコブシは、もはや凶器も同然」


吉川 「いや、ボクサーとかに言うんならまだしも、これはそのまんま凶器じゃないですか」


博士 「トンカチも悪いことばかりじゃないぞぉ」


吉川 「いいことがまるで思い浮かばない」


博士 「吉川くん、じゃんけんを知っておるな?」


吉川 「知ってますよ」


博士 「グーは石、チョキはハサミ、パーは紙。さて、石とトンカチどっちが強いかな?」


吉川 「……トンカチ」


博士 「ハサミとトンカチは?」


吉川 「……トンカチ」


博士 「紙は!」


吉川 「トンカチですけど! だけど、ジャンケンでこんなのだしたら反則じゃないですか」


博士 「反則? そんなことをいうやつには、そのトンカチでガツンと!」


吉川 「死んじゃいますよ。だいたい、これものすごく重い」


博士 「重い方が威力があるからのぉ」


吉川 「なんとかしてください」


博士 「よし、今日は吉川くんのトンカチ記念日ということで、ごはんはトンカツじゃ!」


吉川 「こんな手じゃごはん食べられない!」


博士 「もう。ダメだなぁ、吉川くんは。トンカチとトンカツをかけた駄洒落で一番面白いところなのに」


吉川 「ほぉ。つっこんで欲しいか? こいつで思いっきりつっこんでやろうか!」


博士 「吉川くん! 目が、狂気の目じゃ。いかんぞ、そんなことじゃ」


吉川 「なんとかしろ! このトンカチの手をなんとかしろ!」


博士 「残念ながら、手の打ちようがないな」


吉川 「打つ手しかないだろ!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る