魔王

魔王 「ぬぅ、たかが人間こときに我輩がここまでやられるとは」


勇者 「人間は確かにちっぽけかもしれない。でも、ちっぽけな中に勇気を持っている」


魔王 「のぉ、勇者?」


勇者 「なんだ?」


魔王 「我輩の手下にならないか?」


勇者 「なんだと?」


魔王 「それだけの力を持ってるのだ、今、手下になれば世界の半分をやろう」


勇者 「まじでっ!?」


魔王 「う、うん。まじで」


勇者 「やりぃ! なるなる」


魔王 「えー? なっちゃうの?」


勇者 「なんで? 嘘なの?」


魔王 「いや、嘘じゃないけど……なんか、ダメもとで聞いてみただけだからビックリしちゃって」


勇者 「だって、世界の半分でしょ?」


魔王 「そうだけどさ、なんつーか、ちょっと言ってたことと違うじゃん?」


勇者 「なにが?」


魔王 「勇気とか……」


勇者 「時には引く勇気も必要」


魔王 「えー。この土壇場で引いちゃうんだ」


勇者 「だって、ここでやられちゃったら、全世界ダメになっちゃうでしょ?」


魔王 「まぁ、ダメにしちゃう予定だけど」


勇者 「だったら、半分だけでも手に入れたほうが断然お得じゃん」


魔王 「そうだけど……」


勇者 「人間は、ちっぽけな中に打算をもってるんだよ」


魔王 「うわぁ……。なんか、嫌な部分見ちゃったな」


勇者 「それでは魔王さま、何なりと命令を」


魔王 「もう!? なんか変わり身早いなぁ」


勇者 「やる時はやる男だよ。俺は」


魔王 「やんなかったじゃん……」


勇者 「これからやる!」


魔王 「あ! ひょっとして我輩を油断させて倒そうって言う作戦?」


勇者 「あ~、ないない。だって世界の半分もらえなくなるもん」


魔王 「えー」


勇者 「だってさ、例え魔王倒したところで、何にももらえないんだよ? 名誉だけだよ?」


魔王 「そうだねぇ」


勇者 「だったらさ、なんか欲しいじゃん」


魔王 「うわぁ……。なんていうか、最悪」


勇者 「人間はちっぽけな身体に巨大な欲望をもってるんだぞ」


魔王 「人間ひどいな」


勇者 「人間のすべてがそうなわけじゃないけど、俺はそうだ!」


魔王 「全然、勇者っぽくない」


勇者 「今は、魔王の手下だからね」


魔王 「なんつーか、ちょっとアレだよね。手下にしても信用できないっつーか」


勇者 「あー、寝首をかかれる感じ?」


魔王 「うん……」


勇者 「その手があったか」


魔王 「いや、ないよ! しないでよ!」


勇者 「そしたら、俺、魔王?」


魔王 「いや、一応さ、勇者じゃん? そういうのちょっとあんまりじゃん?」


勇者 「あー、俺、世間体とかあんまり気にしないタイプだから」


魔王 「タイプとかじゃなくてさ、そんなのちょっとやだ」


勇者 「いいよ。俺が魔王になったら責任を持って全世界を絶望に落とすよ」


魔王 「そんな! ちょっと、ひどいじゃん。みんな期待してるのに」


勇者 「あいつら、期待するばっかりで何にもしないんだもん、いい気味」


魔王 「えー。もうなんつうか、最悪なやつだな」


勇者 「俺、最悪だよ? 悪い?」


魔王 「うわぁ、開き直ってる」


勇者 「自分で言うのもなんだけど、相当、魔王の素質あると思うよ」


魔王 「そんな……俺の立場は」


勇者 「だいたい、前から思ってたんだよ。やり方が甘っちょろいって」


魔王 「ひどい! これでもがんばってきたのに」


勇者 「魔王失格」


魔王 「うわぁ。なんか、そんなこと言わなくてもいいじゃん」


勇者 「お前、今日から俺の部下になれ」


魔王 「えー」


勇者 「その代わり、世界の半分やるから」


魔王 「断る! ……はっ? これがまさか? 勇気? お前は、俺にこれをわからせるためにあえて……」


勇者 「ならば、死ねー!」


魔王 「違うのかぁ!」



暗転

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