社長 「吉川くん、景気はどうかね?」


吉川 「はぁ。ぼちぼちです」


社長 「君がそんな弱気でどうする!」


吉川 「いや、別に弱気になったつもりは」


社長 「わしの経営のモットーは、がんばる人はとても偉いなぁ。だ」


吉川 「モットーじゃなくて感想じゃないですか」


社長 「そんな傾いた我が社を建て直すビッグな企画を考えたぞ」


吉川 「傾いてたんですか。この会社は」


社長 「だいぶ傾いてる。雪が降ったらスキージャンプをしても差し支えないくらいだ」


吉川 「大いに差し支えると思いますけど」


社長 「吉川くん、いま大流行なのはなにか知ってるかね?」


吉川 「え~と」


社長 「惜しい! アムラー惜しい!」


吉川 「まだ何も言ってないのに。それにアムラーは流行ってるとは思えない」


社長 「パッケージツアーだよ」


吉川 「旅行ですか?」


社長 「そう。パッケージツアーはどこも大盛況。チケットをとるために徹夜組が出たり入ったり」


吉川 「どこに入るんですか」


社長 「そこでわしも考えたね。我が社もパッケージツアーします」


吉川 「そんな藪から棒に」


社長 「題して、社長と行く男女七人湯けむりハワイイチゴ狩りに隠された謎の日帰りで遭難した男の……」


吉川 「長い長い。そして日帰りですか。結局どこに行くんだかもわからないし」


社長 「まぁ、なんだ。どこかあんまり疲れないところがいいな」


吉川 「社長主体じゃないですか」


社長 「ギックーッ!」


吉川 「そんな、わかりやすい図星のさされ方しなくても」


社長 「思わず心臓が脈打つところだったよ」


吉川 「それは普通ですよ。ぜひ脈打ってください」


社長 「でも旅行きたいじゃん?」


吉川 「社長のレジャーで会社は動かせませんよ」


社長 「じゃぁ、君のレジャーでいきたまえ」


吉川 「いや、別に私は行きたくないですもの」


社長 「大丈夫。郷に入れば虎児を得ず」


吉川 「なんでやさしく説得してるんですか、意味もよくわからないし」


社長 「生きて帰ることを願ってる」


吉川 「どこに連れて行かれるつもりですか。いやですよ」


社長 「獅子はかわいい子を旅に出させると言うじゃないか」


吉川 「初めて聞きましたよ。獅子は余計です」


社長 「わかった。今回のことは、わし一人の胸の中にしまっておこう」


吉川 「なんか、やらかしてしまったような言いぐさじゃないですか」


社長 「君の大活躍を評価して昇進させよう」


吉川 「そんな急に。大活躍した身に覚えはないですけど」


社長 「見てる者は見てるものだよ」


吉川 「はぁ」


社長 「支店長に昇進だ!」


吉川 「は? それはひょっとして左遷では……」


社長 「何を言う。昇進だぞ。ちょっと遠いけど」


吉川 「遠いんですか……」


社長 「いいところだぞぉ」


吉川 「どこなんですか?」


社長 「住めば港だ」


吉川 「港!? アバウト!」



暗転

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