宿命の

藤村 「そこまでだっ!」


吉川 「誰だっ!?」


藤村 「ふふふ、久しぶりだな」


吉川 「お前はっ!」


藤村 「そう、お前の宿命のライバル。藤村だ!」


吉川 「え、誰?」


藤村 「ズコー! なんだよ。せっかくいい発音で登場したのに」


吉川 「いやぁ。どうも、はじめまして」


藤村 「初めてじゃないでしょ! 宿命でしょ」


吉川 「とんと見覚えが……」


藤村 「そうか、厳しい修行で風体も変わってしまったようだな。それならばこれを見 ろ!」


吉川 「あっ! それは!」


藤村 「思い出したか!」


吉川 「そのスマホ、新しい機種ですよね。いいなぁ」


藤村 「ちがーう!」


吉川 「え? もう次の出てるの?」


藤村 「そうじゃない。スマホはたしかに最新型だけど、いま注目なのはそこじゃない」


吉川 「あっ!? それは……っ!?」


藤村 「ようやく思い出したようだな」


吉川 「そのTシャツ、おしゃれ」


藤村 「そうなの。これは渋谷の古着屋で……って違うだろぉ!」


吉川 「うわぁ。なんて中途半端なのりつっこみだ」


藤村 「クッ……」


吉川 「こんなに鳥肌が立ったのは久しぶりだよ」


藤村 「くそぉ。なんか、圧倒的に風下に立ってしまった感が否めない」


吉川 「ところで、何か用ですか?」


藤村 「そうだった。いつかの借りを返させて貰うぞ!」


吉川 「そんなぁ。いつでもいいのに」


藤村 「なんでそんな遠慮してる感じになっちゃってるんだ」


吉川 「いくらだっけ?」


藤村 「金は借りてない!」


吉川 「あぁ……CD? アーノルド・シュワルツェネッガーのトータル・ボディ・ワークアウト?」


藤村 「借りてない! そんなCD存在することすら知らん!」


吉川 「あとなにか貸してたかなぁ……」


藤村 「勝負をつけにきたんだ!」


吉川 「なんだと!」


藤村 「やっとその気になったようだな」


吉川 「いや、いま忙しいから今度にしてもらえる?」


藤村 「してもらえないよ! なんだよ! 宿命のライバルがこうやってきたんだぞ」


吉川 「あれだ。あとでメールするわ」


藤村 「そうじゃなくて、もっとちゃんとあるだろ!」


吉川 「わかった。今度飲みに行こう。まじで」


藤村 「なんでお前は終始和やかなムードなんだ! もっと緊張感をもて」


吉川 「んじゃ、そんな感じで」


藤村 「待て! これでもくらえー!」


吉川 「あー、ごめん。さっき食ってきちゃったから」


藤村 「くらえって、別に召し上がれって意味じゃないよ!」


吉川 「もう、ポンポンパンパンだよ」


藤村 「わかった。もうこっちの主導権で勝手にやらせてもらうからな」


吉川 「なんだとっ!?」


藤村 「いまさら後悔しても遅い!」


吉川 「よく見たら、そのスニーカーレアもん?」


藤村 「もう聞かないぞ! さっきはのりつっこみをしたせいで思わぬ大ダメージを受 けたからな」


吉川 「どうやら、こっちも本気を出さないとやばいらしいな」


藤村 「やっとその気になったか」


吉川 「来ないならこっちから先に行かせてもらうぜ!」


藤村 「いや、散々行ってたんだけど……」


吉川 「とうっ! 超必殺!」


藤村 「なにぃ!」


吉川 「……のすごい技でお前を倒してやる!」


藤村 「まだ技にいってなかったのか! セリフかよ。なにぃって言っちゃったよ」


吉川 「いくぞ! 超必殺! スーパーサイクロン……」


藤村 「うわぁぁ」


吉川 「……という技で決めてやる!」


藤村 「いいから早く技にいけよ。なんだよ、やきもきしちゃうじゃんか」


吉川 「まぁ、そう焦らずに。気楽に行こうぜ」


藤村 「気楽になんか……」


吉川 「アタック!」


藤村 「ぐわぁ、汚い。技名とかも発声してないし、こっちの話途中だったのに… …」


吉川 「ふぅ」


藤村 「しかし、それでこそ……俺の宿命のライバル」


吉川 「いい戦いだったぜ……宿命の……え~と……なんとかさん」


藤村 「あぁ、もう、なんかすっごいやられ損」



暗転

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