着信音

藤村 「ところでお前の着信音なに?」


吉川 「いや、普通のだけど」


藤村 「普通のなに? 普通の塩味?」


吉川 「なんだ、味って? 着信音の話じゃなかったのか?」


藤村 「普通のなんだよ? もったいつけるなよ」


吉川 「いや、別にもったいつけてないよ。普通の音だよ」


藤村 「なんだ音か。さぞかしがっかりしたよ」


吉川 「そんな、さぞかしがっかりされても」


藤村 「俺なんかすごいんだぜ」


吉川 「着メロ?」


藤村 「もうね、着メロとかですらない」


吉川 「着ボイスか」


藤村 「着モレ」


吉川 「モレッ!?」


藤村 「電話がくると、何かが漏れる」


吉川 「気持ち悪っ。捨てろよ、そんな携帯」


藤村 「俺が」


吉川 「お前がかよ! いい年こいて」


藤村 「胸の奥からあふれ出るものがチョロっと」


吉川 「チョロっと出すなよ」


藤村 「それにしてもあれだな、いまどき着信音の一つも気取ってないとは情けないやつだな」


吉川 「人の勝手だろ」


藤村 「俺が設定してやるよ。どんなのがいい?」


吉川 「えー。じゃぁ、ゲームとかの」


藤村 「わかった。ゲームのね。はい」


吉川 「なにこれ? カラカラ鳴ってるだけじゃん」


藤村 「人生ゲームのルーレットの音」


吉川 「そういうゲームなの? 実際の音?」


藤村 「コマを動かす音もあるけど、聞き取りづらい」


吉川 「そうじゃなくてさ、スイッチとかプレステとかの」


藤村 「あぁ。じゃぁ、このファミコンのカセットの尻に息をフーっと吹きかける時の音」


吉川 「フーっじゃん。そうじゃないよ。もういいよ、クラシックとか普通ので」


藤村 「クラシックね。こういうのはどう?」


吉川 「え? なにこれ? 町の喧騒っぽい」


藤村 「倉敷市」


吉川 「倉敷市の音かよ! クラシキじゃん。全然違うよ」


藤村 「じゃ、こう言う音は?」


吉川 「なにこれ? ピ~ヒョロヒョロヒョロ~って」


藤村 「ファックスの受信音」


吉川 「意味がわからないよ。なんでだ」


藤村 「ほら、電話だと思って出たらファックスだってことあるじゃん? それの逆でファックスだと思って出たら電話」


吉川 「面倒くさいよ。そんな様々なリアクションをする腕は持ち合わせてないよ」


藤村 「それなら、俺が着ボイス吹き込んであげるよ」


吉川 「変なこと吹き込むなよ」


藤村 「くせっ! 臭すぎて死ぬ! うわぁ! 臭すぎてしぬぅ……。はい」


吉川 「はいって渡されても」


藤村 「なんかこれだと、携帯がお前の耳と口の匂いで死んだみたいな感じになる」


吉川 「やだよ! 携帯に新たな息吹を与えないでくれ」


藤村 「……」


吉川 「……」


藤村 「ところでお前の着メロなに?」


吉川 「いや、普通のだけど」


藤村 「普通のな……はい、もしもし?」


吉川 「いままでの全部着信音!?」



暗転

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