猫軍
吉川 「上官! もうこれ以上は我慢できません」
藤村 「その話はもう終わったはずだ」
吉川 「しかし!」
藤村 「くどいぞ吉川。軍はおまえ一人の都合で動いているわけじゃないんだ」
吉川 「でも、いくらなんでもアレは……」
藤村 「吉川、兵士の嫉みをいちいち聞いてはいられないのだよ」
吉川 「嫉みじゃありません。人道的にどうかと言ってるのです」
藤村 「しかし立派に戦果を上げてるぞ。猫軍隊は」
吉川 「だけど猫ですよ!」
藤村 「あぁ、猫だ」
吉川 「猫じゃないですか」
藤村 「猫だな」
吉川 「どうして猫なんですか!?」
藤村 「簡単なことだ。俊敏で狡猾で、なおかつ可愛い」
吉川 「確かに可愛いですよ。でも、軍隊に猫って……」
藤村 「吉川。これは戦争だ。考えても見ろ、敵だと思ったら猫なんだぞ」
吉川 「それは……」
藤村 「思わずにんまりしちゃうだろ」
吉川 「しちゃいます」
藤村 「敵としてこれほど恐ろしいものはない」
吉川 「しかし!」
藤村 「肉球で踏まれることを考えてみろ」
吉川 「うわぁ」
藤村 「ぷにぷにだろ?」
吉川 「ぷにぷにであります!」
藤村 「夏場のだらしなくなってる様を想像してみろ」
吉川 「だら~んとのびてるであります」
藤村 「そうだ。猫軍隊は最強なのだ」
吉川 「しかし、猫の身にもしものことがあったら」
藤村 「案ずることはない。吉川、こう言う言葉を知ってるか?」
吉川 「どんな言葉ですか?」
藤村 「招き猫」
吉川 「は、はぁ。あの置物の?」
藤村 「そうだ。千客万来のご利益で一躍スターダムにのし上がった、あの招き猫だ」
吉川 「それがなにか?」
藤村 「招いてくれるのだよ。勝利を」
吉川 「は?」
藤村 「猫はこの戦場に確実に勝利を招いてくれる」
吉川 「そ、そんな……安直な」
藤村 「猫を信じよう」
吉川 「はっ! 上官、ただいま前線から伝令が入りました」
藤村 「うむ、なんと?」
吉川 「はい。伝令によりますと、敵の新部隊により、猫軍隊は……全滅」
藤村 「なんだって!?」
吉川 「信じられませんが、そう書いてあります」
藤村 「まさか、猫軍隊が。いったい、敵はどんな新部隊を」
吉川 「それが……蟹軍隊らしいです」
藤村 「なぜ猫が蟹に負けるんだ! どちらかというと好物じゃないか」
吉川 「その通りです。どちらかというと好物であります!」
藤村 「うぅむ。吉川、いったいその蟹の種類は?」
吉川 「はっ! シオマネキらしいです」
暗転
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