ド忘れ

吉川 「あ~、なんかないかなぁ」


藤村 「なんかって?」


吉川 「例えばさ、スピルバーグがお忍びで来日して、偶然俺と出会い何かを感じて次の映画の主役に抜擢されるとか」


藤村 「ないね」


吉川 「ないよなぁ。スピルバーグはお忍びで来日しないもんなぁ」


藤村 「いや、それがないんじゃなくて」


吉川 「スピルバーグなんていないか……」


藤村 「いるよ! なに勝手に想像上の人物にしちゃってるんだ」


吉川 「いるよな。じゃぁ抜擢されるなぁ……」


藤村 「そこ! そこがおかしい。抜擢がおかしい」


吉川 「可能性の問題だよ。0じゃないわけだろ?」


藤村 「そりゃ0じゃないかもしれないけど、限りなく0に近いよ」


吉川 「よく考えてみろよ。この宇宙にスピルバーグが産まれると言う可能性なんてほとんど0に近かったじゃないか!」


藤村 「そうだけど! もうそれは乗り越えちゃったじゃん」


吉川 「スピルバーグがいたからには、俺を抜擢するだろ」


藤村 「どこからくるんだ。その根拠のない自信は」


吉川 「なんか、スピルバーグって他人のような気がしないんだよなぁ」


藤村 「完全に他人だよ」


吉川 「なんていうかな、本人同士にしかわからない絆っていうかな」


藤村 「たぶんスピルバーグの方は微塵も感じてないと思うよ」


吉川 「俺ってひょっとしたら……スピルバーグかもしれない」


藤村 「なにを突然言い出すんだ」


吉川 「あー、思い出したわ。俺がスピルバーグだわ」


藤村 「お前は吉川だ」


吉川 「思い出すなぁ。……ユタ州」


藤村 「しかもケント・デリカットと間違えてる」


吉川 「次回作とかすごいの作るよ。もうね、宇宙」


藤村 「E.T.でやってるじゃん」


吉川 「宇宙のとある村が舞台」


藤村 「村じゃん。規模小さいよ」


吉川 「そこに突如現れる俺ことスピルバーグ」


藤村 「お前ことは吉川だ」


吉川 「そこで新作の映画を撮る」


藤村 「そりゃ、スピルバーグだからな」


吉川 「お前も出してやるよ。猪八戒役で」


藤村 「何で俺だけ豚なの?」


吉川 「そこでスピルバーグは記憶を失っていて、ある事件によって思い出す」


藤村 「都合がいい!」


吉川 「その事件とは……」


藤村 「事件とは?」


吉川 「思いつかない」


藤村 「なんだよそれ」


吉川 「あ~、なんかないかなぁ」



暗転

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る