ぺてんし

正直村と嘘つき村再び

吉川　「しかし教授、本当にこの先に正直村と嘘つき村なんてあるんですか？」

教授　「吉川くん。フィールドワークを笑う物は一円に泣くぞ」

吉川　「この際、一円はまったく関係ないんじゃ」

教授　「ともかく、この先に正直村と嘘つき村があることは、私の勘により間違いない」

吉川　「えー？　勘なの？」

教授　「シックスセンスが訴えてる」

吉川　「でもこの先別れ道になってますよ」

教授　「うむ。文献によると片方の道が正直村で、もう片方の道が嘘つき村に続いてるらしい」

吉川　「文献あるなら最初からそう言ってくださいよ」

教授　「でも、どちらが正直村に続く道かは書いてないんだよ」

吉川　「えー。間違えて嘘つき村に行ったら大変じゃないですか」

教授　「そうじゃな。なにせ必ず嘘をつくらしいから」

吉川　「調べること全部でたらめになっちゃいますよ」

教授　「そうならないために、なんとしてでも正直村にたどりつかなければいけない。たとえ君の命を危険にさらしてでも！」

吉川　「いやいや、なんで私だけ危険にさらされるんですか。自分もさらしてくださいよ」

教授　「えー。私はいいよ」

吉川　「遠慮するところじゃない」

教授　「ともかく、何か情報がないとこのままでは正直村につけないぞ」

吉川　「シックスセンスはどうなってるんですか？」

教授　「そんなもんない！」

吉川　「……自分でさっき言ったくせに」

教授　「あ！　見たまえ。第一村人発見だ」

吉川　「本当ですね。あの人に聞いてみましょう」

教授　「待ちたまえ吉川くん。慌てる乞食の吉川くん」

吉川　「失敬だな」

教授　「あの第一村人が正直村の住人か、嘘つき村の住人かをまず見極めなくてはならない」

吉川　「そうですね」

教授　「そして、正直村がどちらか聞かなければいけないのだが、ここで一つ問題がある」

吉川　「なんですか？」

教授　「質問は一つしかできないんじゃ」

吉川　「なんでです？」

教授　「どちらの村の人も、ものすごい短気で何回も質問をすると烈火のごとく怒るらしい」

吉川　「そんな。短気すぎる」

教授　「それでいてシャイな一面も持ち合わせているから一つ聞いたらすぐ逃げてしまう」

吉川　「面倒くさい性格の村人だなぁ」

教授　「だから、一つの質問で何とか解決しなければならない」

吉川　「待ってください。とりあえず聞きたいことは、村人がどちらの村の住人か？　と、どちらが正直村か？　の二つですよね」

教授　「そう。それを一つの質問に集約させた上に独自の解釈とシックスセンスを加味して決める」

吉川　「余計な物を加えないで下さい」

教授　「さぁ、どうしよう」

吉川　「こういうのはどうでしょう？」

教授　「右か」

吉川　「いや、人の話を聞いて下さい。なんで勝手に結論出してるんだ。しかも村人に聞かないで」

教授　「シックスセンスが」

吉川　「さっきないって言ったでしょ」

教授　「そう言えばなかった」

吉川　「あの第一村人にこう聞くんです」

教授　「右ですか？　と」

吉川　「なんでそうなっちゃうんだ。一体なにが右かもわからない」

教授　「そういうのは雰囲気で伝える」

吉川　「だったら最初から雰囲気で聞いてくださいよ」

教授　「ごめん」

吉川　「彼にこう聞くんです。あなたの村はこっちですか？　と指を差して」

教授　「ふむ。彼が正直村の住人の場合は正直に答えるな」

吉川　「そうです。彼が嘘つき村の住人の場合は、必ず逆の答えを言うはずです。つまり正直村の方向」

教授　「なるほど！　吉川くん、なかなかシックスセンスが冴えてるな」

吉川　「そんなもんない！」

教授　「よし、さっそく聞いてこよう」

吉川　「お願いします」

教授　「吉川くん！　わかった。こっちだ！」

吉川　「あぁ、第一村人が怒りながら去ってゆく」

教授　「ハラスメントする暇もなかったな」

吉川　「暇があってもそんなことしないで下さい」

教授　「とにかく行こう！　正直村へ」

吉川　「あ、看板が見えますよ」

教授　「本当だ。歓迎ムード満点じゃないか」

吉川　「ようこそ！　ここは嘘つき村じゃないです。って書いてあります」

教授　「ずばり、正直村だな」

吉川　「いや、これって嘘つき村なんじゃ？」

教授　「そんなことないぞ！　ここは私の育った村じゃない！」

吉川　「おまえもか」

暗転